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孤(こ) 一

[685]  彰子  2009-04-26投稿
「あんたなんか、うむんじゃなかった!!」 美里は大声で叫びながら昇太の背中を何度叩いている。
「お母さん、ごめんなさい。…やめて…」
「うるさい!!あんたが悪いんだ!!」息子に何か言われる度、苛々する。
 自分でも訳が解らない状態になり、自分が子供に何をしているのか、頭の半分では解っていながら、それを感じると更にいてもたってもいられなくなり、また息子に手をあげてしまう。
 昇太はお母さんが好きだった。お母さんの笑っている顔、作ってくれたおにぎり…。
でも、一緒に出かけた事はあまりなかった。
休みの日に公園で遊んでいる親子、散歩している親子。楽しそうに手をつないで帰って行く親子。
そんな風景を目にするが、昇太が母親とした事はなかった。 
 だいたい昇太が帰ってくると、すぐに母親は出かけてしまう。食べる物があったり、なかったりだ。
何時になっても帰ってきてくれる気配はなく、夜遅く心細くなり、泣いて待っていたが、期待も虚しく、そのまま眠ってしまう。
7時に目覚まし時計が鳴り起きる日がほとんどだった。
2DKのアパートの家の中は子供が独りでいるには大き過ぎ、がらんとしていた。
誰もいない家の玄関で昇太は靴をはき、「行ってきます」と、か細い声で学校へ出かけた。

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