夏と西瓜
取り立てて、運動会でも授業参観でも活躍することのない僕にも、たった一つだけみんなには秘密の特技があった。それが、絵だ。
何故「秘密」なのかというと、それには理由があるのだけど。
母が僕の生まれる前にデザイナー関係の仕事についていたからか、家にはデッサン用の道具がたくさんあった。
そして母は、いつも僕に自由にその道具を使って遊ばせてくれていた。
だけどあれは確か僕が四つの頃に、ちょっとした事件が起こったのだ。
僕はある日、偶然母の部屋の机の引き出しに、二十五色入りのオイルパステル(クレヨン)を見つけた。
年季の入った木箱の中に、長さこそまちまちではあったけど、二十五色きっちりと並べられたそのオイルパステルは、たくさんあった色鮮やかな着彩道具の中でも一際目を引くものだった。
当時の僕には、まるで宝石箱のように美しく興味深いものだったのだ。
幼い僕は当然そのオイルパステルを引っ張り出して、いつものようにそこら中の紙に絵を描いて遊んでいた。
そしてあろうことに、橙色のオイルパステルを折ってしまったのだ。
すると、この状況を発見した母が驚いて僕に駆け寄り、初めて僕を叱った。
「お母さんは勝手に使った事に怒っているんじゃないのよ。ただねヒロム。このクレヨンだけは駄目なの。これはお母さんのとっても大切な宝物なの」
そう言って母は大粒の涙を流したのを、僕は今でも覚えている。
幼心にも、僕は何だかとてもいけない事をしてしまったような気がして、それ以来母の前で絵を描かなくなった。
僕が絵を描くと、また母が悲しむような気がしたからだ。
それでも、やっぱり描くことが好きだった僕は、小学校に入学して配布された色鉛筆や絵の具を使って、学校でたくさん絵を描き溜めていた。
そんなある日の休憩時間、いつものように絵を描いていた僕を見たクラスの女子が
「男の子のくせに、絵ばっかり描いて気持ち悪い」とからかったんだ。
生真面目な僕は、その言葉を本気で捉えてものすごくショックを受けた。
それ以来学校で絵を描くのもやめて、僕は自分の部屋でこそこそと描くしかなくなってしまったんだ。
何故「秘密」なのかというと、それには理由があるのだけど。
母が僕の生まれる前にデザイナー関係の仕事についていたからか、家にはデッサン用の道具がたくさんあった。
そして母は、いつも僕に自由にその道具を使って遊ばせてくれていた。
だけどあれは確か僕が四つの頃に、ちょっとした事件が起こったのだ。
僕はある日、偶然母の部屋の机の引き出しに、二十五色入りのオイルパステル(クレヨン)を見つけた。
年季の入った木箱の中に、長さこそまちまちではあったけど、二十五色きっちりと並べられたそのオイルパステルは、たくさんあった色鮮やかな着彩道具の中でも一際目を引くものだった。
当時の僕には、まるで宝石箱のように美しく興味深いものだったのだ。
幼い僕は当然そのオイルパステルを引っ張り出して、いつものようにそこら中の紙に絵を描いて遊んでいた。
そしてあろうことに、橙色のオイルパステルを折ってしまったのだ。
すると、この状況を発見した母が驚いて僕に駆け寄り、初めて僕を叱った。
「お母さんは勝手に使った事に怒っているんじゃないのよ。ただねヒロム。このクレヨンだけは駄目なの。これはお母さんのとっても大切な宝物なの」
そう言って母は大粒の涙を流したのを、僕は今でも覚えている。
幼心にも、僕は何だかとてもいけない事をしてしまったような気がして、それ以来母の前で絵を描かなくなった。
僕が絵を描くと、また母が悲しむような気がしたからだ。
それでも、やっぱり描くことが好きだった僕は、小学校に入学して配布された色鉛筆や絵の具を使って、学校でたくさん絵を描き溜めていた。
そんなある日の休憩時間、いつものように絵を描いていた僕を見たクラスの女子が
「男の子のくせに、絵ばっかり描いて気持ち悪い」とからかったんだ。
生真面目な僕は、その言葉を本気で捉えてものすごくショックを受けた。
それ以来学校で絵を描くのもやめて、僕は自分の部屋でこそこそと描くしかなくなってしまったんだ。
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