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猫物語その8(改)

[447]  α  2009-05-19投稿
 風が運ぶにおいに気を配りながらも子猫は一路 麓の町を目指しておりました。
 雀の話によると、なんと笛吹は今 以前子猫が暮らしていた あの町まで来ているそうなのです。
 雀の話を鵜呑みにするわけではございませんが、しかし今の子猫には他に宛てにできる情報もないのです。
 子猫があの町へ行くのは またたび入りマッチを使い切ってしまった夜 以来のことでした。
 子猫は、モトドリに出くわしてしまったら どうしよう。いや、その時はその時で 自分のできる最善の対処をするだけにゃ。今は笛吹を見つけることだけに集中するべきにゃ。と自分に言い聞かせて 黙々と山を進むのでした。
 目的達成の障害になる可能性のある事柄を回避もしくは排除する努力もまた怠るべきではないと子猫に忠告してくれる者は今誰もいません。子猫は自分の力だけで自分の望みを実現させなければならないのでした。
 とは申しましても今まで子猫の望みを誰かが叶えてくれていたわけではありません。ただ子猫はおそらく始めて自らの成したいことを明確に認識し、目の前には何もない状態から現実の形にしようと行動に出たのです。
 竹の棲息域から広葉樹のそれにかわるころ、子猫は水のにおいを小さな可愛い健康的なあずき色の鼻に、囁き交わす誰かの声を 美しく尖った二等辺三角形の耳にとらえました。

 聞いたか、二の蛙よ。

 なんだね、一の蛙よ。

 聞き返された一の蛙が答えます。

 実はだな、町へ続く街道に空から魚の群が降ってきたそうなのだ。

 なんと。わしは魚とは水の中でしか暮らさないものとばかり思うておったぞ。

 ああ、魚というやつは水の中ばかりに暮らしていて、それが世界の全てだと思いこんでいる阿呆ばかりだとわしも思うておった。

 蛙たちは訳知り顔で腕を組んで、しかつめらしく うんうんとあるのかないのか分からない首を上下に動かし頷いています。

 それで一の蛙よ。なぜ魚たちは急に住み処をかえる気になったのだ。

 よい質問だ、二の蛙。魚が水から陸に出た理由、それは...

 それは?

 今わしが この優秀な頭脳で あらゆる可能性を検証しておるところなのだ。

 蛙は得意満面に自分の平たい頭を水掻きのついた手の平で撫であげたのでした。

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