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猫物語その11(改)

[470]  α  2009-05-19投稿
 あやしげだなんて これは酷いおっしゃりよう。

 二の蛙は水掻きを掲げてのけ反ると、せっかく お猫さまに喜んでいただけると思って差し出しましたのに。とおいおい歎きます。
 これは言い過ぎたのかにゃ、と子猫が純真無垢な心を良心の呵責に揺さぶられると、すかさず一の蛙が その揺らぎを子猫のつぶらな瞳の中に目敏く見つけて言い募るのでした。

 美しやかで愛くるしい お猫さまならば さぞやお心も愛情豊かに満ち溢れていらっしゃるに違いないと存じて我々の貴重な煎餅を奉ろうと致しましたのに、あやしげだとは あまりのおっしゃりよう。一の蛙は悲しゅうございます。よよよ...。

 なんだかすでにもう蛙たちは自分の演技に酔い痴れているかのような有様で話が長くなりそうな様子に うんざりした子猫は この子は早く老けそうだと予感させるような ため息をついてこう申したのでした。

 もういいにゃ、わかったにゃ、それもらうにゃ、そしておまえらも食べないにゃ。つーか今後蛙を見つけたとしても話し掛けたりにゃんか絶対しないにゃ。

 なんと一の蛙よ、きいたかね。

 ああ、きいたとも二の蛙。我々は同胞の命をも救ったぞ。

 うむ、どのような巡り合わせか知らなんだが 自らのみならず他者の命も救うとは、有能な証であろうよ。

 と、ひそひそ囁き交わす蛙たちの話を 美しく高性能な二等辺三角形の子猫の耳は バッチリ聞き取っていましたが、もはや何も言う気にはなれず、蛙たちが煎餅を包んだ風呂敷を首に巻き付け結び終えるのを じっと辛抱強く待ったのでした。

 さあこれでもう大丈夫。何処にいてもすぐ判る。

 という蛙のつぶやきを聞き咎め、子猫は ふと自分の首に巻き付けられた風呂敷のはじに小さな鈴が下がっているのに気が付いたのです。

 にゃ、にゃにー?

 慌てて引っ張りましたが片結びなので ちょっとやそっとでは取れません。

 ふ・ふ・ふ...。これでどうにか安心だ。

 うむうむ。猫に鈴さえ着ければ一安心。上手くやったな二の蛙。

 上手くやったぞ、一の蛙。いざさらば!

 さらば、猫の子!

 ポシャン、ボシャン。

 というかわずとびこむ水の音が、あっけにとられた子猫を正気に戻したのですが、時すでに遅く 蛙たちは水の中なのでした。

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