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猫物語その13(改)

[486]  α  2009-05-20投稿
 みどもはこれより四里ほど西にある池に棲むザリガニである。いや、棲んでいたと申すべきか、もう戻れるあてはありもすまいて。

 ザリガニは一瞬 子猫への警戒さえ忘れて悲しそうに呟きます。

 沼ほど広くはないし栄養豊富な腐葉土が溢れかえっているわけでもないが、それでもみどもらが慎ましく暮らすには充分な生態系が そこにはあった...。

 ザリガニのいう充分というのは無駄がないという意味であり、子猫にも その様子は無理なく想起できました。

 だがつい先日、突然に旋風の柱が天へそびえたかと思うと 周囲の様々なものを巻き込みながら地を走り みどもらの棲まう池に乗り込んできおったのだ。

 ザリガニはさも口惜しそうに子猫に向けた鋏を震わせます。
 一度話しはじめると、まるで堰を切ったようにザリガニは詳細を語りだしました。

 みどもは これこのとおり若くはない。ある程度の年月は生きてきたと思っておる。
 しかし あのような天変地異にはいまだかつて 見回れたことはあらなんだ...!
 みどもはせめて連れ合いと離れぬよう 互いの鋏をはさみあって その旋風に巻き上げられていったのさ。
 どれほどの間 空を飛んでいたであろうか。そう、ザリガニが空を飛んだのさ!
 おかしいと思うであろう?話に聞くだけでは ただ面白そうだとしか思わんだろう。

 その言葉に子猫は慌てて首を横に振りましたが、ザリガニの目には映らない様子です。
 フラッシュバックに苛まれるかのように ザリガニは一心不乱に話しつづけます。
 子猫には心的外傷後ストレス障害についての知識などは微塵もありませんが、そのザリガニがあまりにも辛そうに話すので遮ることも言葉をはさむこともできずに ただただ黙って聴き続けたのでした。

 空の上は寒かった。恐ろしさで震えておったのか、それとも寒さで震えておったのか判然とせぬ。
 だが目をもぎ取られそうな強い風の中でも不思議と連れ合いの青ざめた顔が見えたのだ。あれにも みどもが同じように見えていたであろうか...。
 みどもらザリガニの目は強風の中でものを見るように できておらぬ。尤も、魚や蛙やヤゴとて変わりはせなんだろうがな。
 だが何事も永遠に続くということはない。風が和らいだかと思うと みどもらは真っ逆さまに地へと落とされたのさ。

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