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猫物語その14(改)

[506]  α  2009-05-20投稿
 酷いとは思わんか。
 勝手に みどもらを空へ連れ去っておいて 風はまた気まぐれに みどもらを打ち捨てにしおったのだ...。

 ザリガニの声音が少しは落ち着いてきたように子猫は思いましたが、ザリガニは さらに小さな生き物たちの被った厄災を物語ります。

 みどもは木々の枝をすり抜けて下草の上に落ちた。少しの間目を回していたようだが大事なかった。
 連れ合いはというと、なんとしたことか...!少し離れた石の上に身を打ち付けて虫の息で みどもの方を見ておったのだ...

 とうとうザリガニは鋏を下げて顔を俯せてしまいました。地を掴む鋏がやり場のない感情を著わにして震えています。
 子猫が見回すと確かに もう一匹ザリガニが ぐったりと横たわっているのが判ります。ただ、動いていないため 猫の目では 詳細に見分けることはできませんでしたが、高い空から小石の上に落ちたのなら ザリガニの外殻などひとたまりもなかったのでしょう。
 むしろ こちらのザリガニの運が良すぎたのです。
 そしてその強運のために、愛しい者が死に瀕した姿を目の当たりにするという不運で代償を支払うこととなりました。

 みどもが鋏を離したりしなければ...、あれも草の上に落ちて ああも苦しみはしなかったであろうに...なぜ みどもは鋏を離したりしたのか...!

 ザリガニの後悔に子猫は声もありません。ザリガニが伴侶の不運に対して自責の念にかられる理由もわかりません。
 現在の彼女の境遇がザリガニのせいでない事を知っているからです。
 自分にできそうなことなど何もないのに、子猫はその場を離れることが できませんでした。

 すまぬ、猫殿よ。そなたには みどもらを喰らうつもりはないのだな。てっきり、意地汚く生き物の死骸を食い散らかしに来た奴らと同類かと思って無礼をいたした。赦されよ。

 子猫が手をこまねいている間にザリガニは自力で 精神を建て直し、あまつさえ子猫に謝罪して見せたのでした。
 さもありなん、ザリガニといえども 生まれて一年も経たない幼な子に慰められるような 情けない精神構造は有していないのです。

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