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猫物語その20

[545]  α  2009-05-21投稿
 どれほどの間 町をさ迷ったことでしょう。子猫は あちこちで鼠を呼び集められる笛吹の居所を尋ね歩いていました。
 雀が知っていたくらいですから有名に違いないと思っていたのですが 町ではなかなか知っている者に出会えません。
 そしてさらに子猫が困ったのは町に猫語を話せる人が少ないという事態でした。
 竹内さんとの心温まる日々に子猫はすっかり慣れきってしまっていたのです。無躾に遠慮会釈なく撫でくり回そうとする人や無理矢理に頬寄せる人、あるいは過度の猫嫌いの追撃をかわしながら やっとの思いで ある八百屋の軒先に辿り着きました。

 かの八百屋の ご主人は、なぜうちは魚屋ではなかったのだろう。どうせ商いをするなら 猫が しょっちゅう訪れ周囲に居座り虎視眈々と隙を伺ってくれる魚屋になりたかった。ああ、でもそしたら自分と猫とは商売がたき。猫好きでありながら猫を追い払わなければならない立場を勤めることなど きっと耐えられはしない...!と、常日頃 思い悩む ちょっとしたセンチメンタリストでありました。
 それならば いっそのこと魚屋になってみればよかろうがと 八百屋のご主人の悩みを聞いた方は お思いになられるやもしれませんが、所得格差が拡がりつつある 今日においては 職業選択の自由など あってないに等しいもの。八百屋のご主人は親から引き継いだ「生きるための手段」を守ることで精一杯でした。

 もしもしちょっとよろしいですか?

 と客が引いた間隙をついて子猫が話し掛けたので 八百屋のご主人は内心 喜びに踊り上がりました。

 おや、これは可愛い お客様だ。ご用向きは なんでございましょう。

 と、子猫に驚いて警戒されないよう 八百屋のご主人は爽やかかつ落ち着いた様子で笑いかけました。

 実は お野菜を買いに来たのではにゃいのですにゃ。お尋ねしたいことがあるにょですが それでも構わにゃいでしょうか。

 子猫は恐る恐る、済まなさそうに申します。

 ええ、猫さんの お役にたてるのでしたら もちろんですよ。なんでもきいてください。

 八百屋のご主人は本心うれしく思っているので はきはきと、接客もする お店の人らしく歯切れ良く答えます。

 では お言葉に甘えて お尋ねしますにゃ。
 鼠を呼び集められる笛吹をご存知ありませんにゃ?

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