人斬りの花 3
1-3 出哀
抄司郎は14の時,
武部嘉市郎
(たけべ かいちろう)に人斬りとして雇われた。
闇商業を密かに営んでいる武部は,自分の商業の邪魔になる者は全て消し去りたかった。
それは,卑劣な事に,
同じ商業仲間や,昔の同士,身内にまでに至る。
その為には,当然腕の立つ剣客が要る。
そんな時,
鞍和抄司郎の噂を聞きつけたのだ。
「鞍和の負けなし。」
その噂に,
武部は惹かれた。
完璧主義者の武部は,
勝つ事しか知らない抄司郎を何としてでも手に入れたいと考えた。
欲しい物の為には手段を選ばない。
武部とはそう言う男だ。
だから抄司郎を,
部下に夜通し町じゅうを探させたのは,言うまでもないだろう。
抄司郎はと言うと,
早くに両親が病で死に,
身よりの無い所を,
村の道場の主である,
桐生 正史郎
(きりゅう せいしろう)に引き取られて日夜剣術に励んでいた。
幼い頃から剣の才能のあった抄司郎は,
10を過ぎた頃には桐生をもしのぐ腕となり,
やがて「負けなし」の噂が流れるまでとなっていた。
そして14の夏,武部が現れた。
抄司郎の目の前に武部が現れた時,
既に抄司郎の雇い話は決まっていた。
おおかた,武部が桐生を脅し,強引に雇ったのだろう。
そうでなければ,
道場の後継ぎ候補であった抄司郎を桐生が手放す筈がない。
14の抄司郎には,
それが分かっていたようだ。道場を思い拒む事も出来ず,仕事の内容も聞かされずに武部に雇われて行った。
≠≠続く≠≠
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