奈央と出会えたから。<364>
『あたしは別にかまいません。
父に言うなら言えばいい。
渋川先生。
あたしは――』
沈黙を破り、ユカが渋川に向かって、
ゆっくりと口を開いた。
『なっ、なんだね?!秋田谷?!
今度は私を殴ろうって気か?!』
少しビビり口調の渋川が、ユカに聞き返す。
『あたしは、渋川先生の様な、腐った大人にだけは、なりたくないですから。』
きっぱりと言い切った、凛としたその目は、まっすぐ前を向いていた。
ユカに言われた言葉が、
渋川にとっては、かなりショックだったのか、
なかなか言い返す言葉さえ見つからずに、イライラしている様子で、
少しの間を置き、突然開いた口からは、
珍しくも、迫力のある、怒鳴り声が飛んで来た。
『お前ら、クソガキにっっ‥‥おっ、大人の大変さが分かってたまるかっっ!!』
保健室中に響き渡った怒鳴り声は、
たぶん、廊下を突き抜けて、
どこかの教室にも、届いていただろうな。
『渋川先生?!
ここは保健室ですよ?!』
さっきから、黙って聞いていた篠原先生が、
動揺して、感情的に怒鳴った渋川に向かって言った。
『‥‥ま、本日は不在である教頭が戻り次第、
行われるであろう校長との話し合いで、北岡の処分が決定すると思われるが、
覚悟しておけよ?!‥‥北岡‥‥‥。』
渋川は、銀縁の眼鏡のズレを手で直しながら、
その眼鏡ごしに見える細い目を、さらに細めて、
チラリと聖人の方を見た。
『ヘッ‥‥あぁ、どうにでもしてくれ。
俺は逃げも隠れもしねーよッッ。』
そんな渋川の言葉に動じる聖人じゃなかったから、
思ったとおりの強気な言葉を返した。
そして、
保健室を出て行こうと、ドアに手を掛けた渋川が、こちらを振り返り、
最後に、こう言ったんだ。
『秋田谷。お前の父さんに同情するよ。
まさか、自分の娘に出世の邪魔をされるとはな。
ハッハッハッハ―――』
ガラッッ―ー‐
バタンッッ―ー‐
渋川の高笑いは、
勢いよく閉められたドア越しに、
高々と響いていた。
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