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揚げ出し豆腐

[291]  今井将磨  2009-05-27投稿
村井は焦っていた。

まだ、さつきへのプレゼントを買ってない。

最近、忙しさに、かこつけて、

さつきを蔑ろにしていることを、

村井自身もわかっているし、さつきにもいつも言われている。

今日はさつきの誕生日。

「仕事で会えないなら、とっておきのプレゼントを頂戴。」

さつきは歳の割に大人だ。

今年、現役新卒の社会人とは思えないくらい落ち着いている。

ここが12歳離れた村井の心にゆとりをくれる。

逆に言えば村井をなーなーにしてしまうのだけど。

村井はやっとプレゼントを買った。

といっても夜11時半。

素敵なプレゼントなどあるはずがない。

さつきの好きなスナック菓子とビールを買って、猛ダッシュ。

久しぶりに走った。

体力は落ちてるもんだと変に納得する。

「ピンポン」

「はーい」

「俺、遅くなったけど、来てみたんですが。」

「今、何時だと思ってますか?」

「11時」

「11時?」

「11時55分です。」

「私の誕生日は後何分でしょうか?」

「5分です。」

「ふーん、で、プレゼントは?」

「さつきの好きなスナック菓子とビールだよー。」

「はー、そうですか。」

「ごめんな、遅くなって。」

「まー仕方ないけどさ。」

「・・・」

「ねー、揚げ出し豆腐作れるようになったんだけど。」

「はっ?」

「もしよかったら、お豆腐買ってきてよ、今から作るよ。」

「あー、でもさ。」

「それで帳消しにするよ、今年のプレゼントはお豆腐。」

「うーん、すまん。ありがとう、買ってくる。」

「待って、後2分、誕生日を祝って。」

ドアが開く。

久しぶりに見るさつきの顔は、やっぱいい女だよな、と思わせる。

2分後、村井はコンビニに走るだろう。

さつきの作った温かな揚げ出し豆腐を想像して。

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