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私は悪くない1

[271]  今井将磨  2009-05-31投稿
「私は悪くないよね?」

「はい、神崎さんは悪くないと思いますよ。」

「そうよね。」


神崎信子は総務部長にのぼりつめた57歳のキャリアウーマンだ。

ということになっているというのが正しいかもしれない。

三ヶ月前離婚した。

夫が定年退職を期に別れてほしいと言い出したのは半年前。

いわゆる熟年離婚というやつだ。

私は悪くない。

信子は思った。

夫は45歳という中途半端に若い女と今は暮らしている。

夫の勤めていた会社の万年ヒラのような、地味な女だ。

夫は気が狂ったのかとさえ思った。

たかだか十四・五下の地味な女を、なんで私を捨ててまで、囲う必要があるのか?

なんなら二号さんが夫にいたっていい。

夫にもそれを伝えた。

お前のそういうところが嫌だとかなんだとか言って、私の前から去っていった。

私はあんな男いらない。

私は悪くないのだから。

信子はいつもこうだ。

何かにつけて、自己評価のできない女なのだ。

一人息子にも捨てられた事実に気付いてない。

「母さんは一人でやれるよね?母さんはすごいから。」

「そんなことないわ。そんなことより、あなた、彼女とどうなの?」

「実はさ、同棲しようと思って。」

「あら?」

「でね、俺が彼女のマンションに住むのがいいかなと。」

「は?」

息子はいつも信子を苛立たせる。

我が息子ながら、女々しい男だ。

五歳も上の女にいいようにされているにちがいない。

「幸子さんのいつも思い通りね。いつもあなたはそうやって・・・」

信子の話は際限なく続く。

「ねぇ、母さん?」

「なによ。」

「父さんがなんで出ていったか考えたことある?」

「考えるもなにも、あの人が女作って出ていったんじゃない。

何を考えるっていうのよ?」

「はー。」

「何よ。私が悪いっていうの?」

「母さんは悪くないよ。とにかく、俺は幸子と暮らすから。」

「勝手にしなさい。」

会社でもそうだ。

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