子供のセカイ。20
目を開けると、月は地面と平行に空を飛んでいた。たまに降下し、また水平になり、ずっと繰り返しだ。どうやら美香がいた山は、そうやって段々が連なるそれなりに高い山だったらしい。とても一人では降りられなかった、と美香は思わずため息をついた。
やがて地面が見えてきた。
月はふわりと地面に落ちると、次の瞬間にはスッと離れていった。美香は自分がいつの間にか草の上に座り込んでいるのに気づいた。
傍らに月と共に浮かんでいる王子を見上げる。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
王子の穏やかな顔を見ていると、何だか張り詰めていた気持ちがほどけていくようだった。
美香は立ち上がって辺りを見渡した。左手には枯れ木の山の裾野が緩やかに斜面を作っていて、右手には開けた荒野が見える。夜空には星一つなく、風はそよとも吹かない、静寂に満ちた荒れ地。まるでこの世の終わりのような、ひそやかな場所。そちらに“生け贄の祭壇”があるのだろうか…?
「王子、“生け贄の祭壇”はあちらの方角にあるの?」
「そうだよ。」
「そっか……うん、わかったわ。私、行ってみる。」
美香が王子に背を向け、歩き出そうとすると、不意に王子に手をつかまれた。つかまれた、というよりはつながれた、といった方が正しいような、自然な動作だった。
「?」
「行かないで、と言っても、君は行くんだよね……。」
美香はびっくりした。王子は今にも泣き出しそうな顔をしていたのだ。
「え、ええ…。でもどうして……?」
「僕も変えたいなら覚悟を決めなきゃいけない。光の子供である君のように。ただ、勇敢に。」
美香がわけがわからずにいると、王子にぐいと手を引っ張られ、ニ、三歩よろよろと荒野の方に進み出た。王子は相変わらず月と一緒で、地面から数センチ浮いている。
しばらくそのまま行くと、急に、空気の感触がひやりと水のように冷たくなった。
確実に、今、何か透明な壁をつき抜けた。
「…え、」
美香は呆然として、目の前に広がる緑溢れる美しい土地を見ていた。
真上にある太陽が、午後の暖かい陽射しを、足元に群がる小さな花ばなに注いでいる。
「な、何で……!?」
「成功した…!!」
興奮したような口調で呟いた王子を見上げると、顔の位置がさっきより低くなっていた。
王子の足が地面についている。月は跡形もなく消えていた。
やがて地面が見えてきた。
月はふわりと地面に落ちると、次の瞬間にはスッと離れていった。美香は自分がいつの間にか草の上に座り込んでいるのに気づいた。
傍らに月と共に浮かんでいる王子を見上げる。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
王子の穏やかな顔を見ていると、何だか張り詰めていた気持ちがほどけていくようだった。
美香は立ち上がって辺りを見渡した。左手には枯れ木の山の裾野が緩やかに斜面を作っていて、右手には開けた荒野が見える。夜空には星一つなく、風はそよとも吹かない、静寂に満ちた荒れ地。まるでこの世の終わりのような、ひそやかな場所。そちらに“生け贄の祭壇”があるのだろうか…?
「王子、“生け贄の祭壇”はあちらの方角にあるの?」
「そうだよ。」
「そっか……うん、わかったわ。私、行ってみる。」
美香が王子に背を向け、歩き出そうとすると、不意に王子に手をつかまれた。つかまれた、というよりはつながれた、といった方が正しいような、自然な動作だった。
「?」
「行かないで、と言っても、君は行くんだよね……。」
美香はびっくりした。王子は今にも泣き出しそうな顔をしていたのだ。
「え、ええ…。でもどうして……?」
「僕も変えたいなら覚悟を決めなきゃいけない。光の子供である君のように。ただ、勇敢に。」
美香がわけがわからずにいると、王子にぐいと手を引っ張られ、ニ、三歩よろよろと荒野の方に進み出た。王子は相変わらず月と一緒で、地面から数センチ浮いている。
しばらくそのまま行くと、急に、空気の感触がひやりと水のように冷たくなった。
確実に、今、何か透明な壁をつき抜けた。
「…え、」
美香は呆然として、目の前に広がる緑溢れる美しい土地を見ていた。
真上にある太陽が、午後の暖かい陽射しを、足元に群がる小さな花ばなに注いでいる。
「な、何で……!?」
「成功した…!!」
興奮したような口調で呟いた王子を見上げると、顔の位置がさっきより低くなっていた。
王子の足が地面についている。月は跡形もなく消えていた。
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