携帯小説!(PC版)

渇き

[265]  竹村  2009-06-01投稿
喉が渇いた。
そう思いながら、口に水を含ませる。

君がいなくなってから、もう何週間が経っただろうか。

1週間?
1ヶ月?
1年?

あぁ、そんなのどうだっていい。
こんなこと考えても、君は戻ってくることはないのだ。

君は突然、僕の元から去った。
置き手紙が無い広い部屋に、取り残された僕はぽつり。
いつもより整頓されて、冬を感じさせる暗い部屋に佇むしかなかった。

君の消失に混乱して1時間、待った。
君の身を心配して、もう2時間、待った。
君の帰宅を期待して、もう3時間、待った。
君の存在を疑躍して、はもう5時間、待った。

君は帰ったこなかった。

そこから時間が狂いだしている。
もう何もかもがわからない。
自分は?自分だ。
君は?君だ。
じゃあ、帰ってこない君は?本当の君?君なのか?
君が戻らないこの場所は正しい?本当に僕の部屋?君がいないのに?

時は?空間は?世界は?

あぁ、ダメだ。

君が帰ってこないこの世界は全て、嘘っぱちにしか感じられない。
本当の世界はもっと別の場所にある気がするのだ。

あぁ、そうだ。
別の世界だ。
この世界には用はない。要がない。
ドアを開けて、夜の街へ出て行くことにした。
凍てつく風を受けながら、マンションの前へ出る。
部屋着のままということには、数分経ってから気づくことができた。
暗い夜。月さえ途絶えた、この街には雪が降る。
その雪を照らすほのかな街灯の光を頼りに君を探した。


自分の足元にあるものを跨ぎ、君の名を呼ぶ。
自分の足元にあるものを目に入れずに、君を探す。

そうしているうちに、寒さに負けて帰ることにした。
だが、今からマンションに戻るとアレを見てしまう。
精一杯、見ようとしなかったアレを。


――君の凍死体を


「うわああああぁぁぁぁぁっーー!!!!!」


自分のせいだ。
モタモタと君を待つことしかできなかった自分のせいだ。
もっと早く探しに行けば、こんなことにはならなかった。
寒さに凍える中、跪いて冷たい君を抱く。

喉が渇いた。
ヒリヒリするまで、渇く。
潤いが欲しい。自分の渇きを満たして欲しい。
そこらにある雪を掴み、口に押し込む。
胃が縮むような思いがした。けれども、渇きは満たされない。

ぐずぐずしていた自分では、決して満たされない。




喉が渇いてしかたなかった。


感想

感想はありません。

「 竹村 」の携帯小説

ノンジャンルの新着携帯小説

サーバ維持用カンパお願いします。
WebMoney ぷちカンパ

Twitterで管理人をフォローする

利用規約 - サイトマップ - 運営団体
© TagajoTown 管理人のメールアドレス