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ほんの小さな私事(6)

[486]  稲村コウ  2009-06-02投稿
「でぇ〜…沙羅ちゃんは、弓道部だっけ?」
「うん。中学の頃からやってたのもあるし、道場もあるって聞いているから。」
「ふぅ〜ん…。」
高野さんに聞かれた通り、私は、昔から続けている弓道をやる事を、既に心に決めていた。
けれど、彼女の歯切れの悪い言葉が、少々ひっかかった。
「道場は…あるにはあるんだよね。でも、弓道部の部員、今年は確か、ゼロだった気がするのよ。」
「えっ?」
成る程。歯切れの悪さは、そういう事だったのか。でも、言葉から察するに、確定情報ではなさそうなので、とにもかくにも私たちは、道場に向かって見る事にした。
体育館の間に道を挟み、その向かいに、道場の施設がある。手前は、剣道と柔道の合同競技場になっており、その奥に、目指す道場があるのだが…。
「なんだか静かだわ。」
「だね〜。」
奥の道場からは、全く音が聞こえてこない。手前の合同競技場からは、剣道部と柔道部が練習しているようで、竹刀のぶつかりあう音や掛け声が響いているのだが、そういった音がうるさくとも、奥の弓道場で練習があれば、何かしらの音は聞こえてくる筈だ。
「しょうがないな。凉姉ぇに話聞いてみるか。」
高野さんはそう言って、手前の合同競技場に顔を入れ、誰かに向かって叫んだ。
「凉姉ぇ〜!ちょっといい?」
この時私は、彼女が言う『凉姉ぇ』というのが、彼女の親しくしている先輩なのかと思っていた。
だが、その呼び掛けに反応してこちらにやってきたのは、私たちクラスの担任である、瀧口先生だった。
「高野ぉ…頼むから学校で、その呼び方はやめてくれ。」
困り果てた顔をする先生。それに対し高野さんは、「別にいいじゃん」と、ニヤニヤ笑いながら答えた。

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