子供のセカイ。22
「こんなのおかしいわ。犠牲がなきゃ何もできない世界だなんて……。」
しかし、王子は不思議そうに美香を見た。ゆっくりと口を開く。
「これが普通だよ。なにも“子供のセカイ”だけが犠牲を必要とするわけじゃない。どこの世界だって、何かを成すには犠牲がつき物なんだ。」
「そんなことない。“真セカイ”にはこんな法則はないもの。」
「……君はまだ子供だから知らないだけさ。犠牲は要るんだよ。どんなことにも。」
美香が反論しようと口を開きかけると、王子の静かな目がそれを制した。この時初めて王子が美香より年上の存在に感じられ、美香は余計に納得がいかなくなった。
(なんなの?じゃあ、耕太があんな闇の中に一人で残らなきゃいけなかったのは、仕方のないことだったっていうの!?)
わけがわからなくて、腹が立って泣きそうになったが、美香は口をつぐんで顔を背けることでなんとかこらえた。王子は美香の様子を察すると、静かな口調で話をそらした。
「僕を想像してくれた光の子供はね、もう大人になってしまったんだ。もう僕のことなんて忘れてしまった。だから、僕には行くあてなんてないんだよ。」
「……。」
「だから、君と一緒に行っていいかな。“生け贄の祭壇”に行くには、あと二つの領域を越えなきゃいけない。それは大変な道のりだから、僕は、せっかく出会えた君を、助けたい。」
先程の王子の泣きそうな顔を思い出す。寂しかったのだろう。たった一人で、唯一想像してくれた光の子供にまで忘れられて……。危険な道だと知っているはずなのに、それでも申し出てくれるということは、孤独の方が恐ろしいということなのだろう。
美香は少し黙ってそんなことを考え、やがて頷いた。
「ええ。あなたが来てくれると頼もしいわ。ありがとう。」
「こちらこそ!」
王子は本当に嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあそろそろ行こうか。」
そう言って王子は立ち上がった。ちょっとぐらぐらしているが、この様子なら大丈夫そうだ。
美香は改めて辺りを見渡し、その緑の多さにほうっと息を吐いて目を細めた。
「ここは素敵な所ね。」
下生えの緑の草は足首まで埋め、その合間合間に、紫や白の花をつけた小さな野花が可愛らしく咲いている。遠く向こうの方には針のように細い木々が立ち並び、林を作っていた。その向こうに煙が見える。人家があるのかもしれない。
しかし、王子は不思議そうに美香を見た。ゆっくりと口を開く。
「これが普通だよ。なにも“子供のセカイ”だけが犠牲を必要とするわけじゃない。どこの世界だって、何かを成すには犠牲がつき物なんだ。」
「そんなことない。“真セカイ”にはこんな法則はないもの。」
「……君はまだ子供だから知らないだけさ。犠牲は要るんだよ。どんなことにも。」
美香が反論しようと口を開きかけると、王子の静かな目がそれを制した。この時初めて王子が美香より年上の存在に感じられ、美香は余計に納得がいかなくなった。
(なんなの?じゃあ、耕太があんな闇の中に一人で残らなきゃいけなかったのは、仕方のないことだったっていうの!?)
わけがわからなくて、腹が立って泣きそうになったが、美香は口をつぐんで顔を背けることでなんとかこらえた。王子は美香の様子を察すると、静かな口調で話をそらした。
「僕を想像してくれた光の子供はね、もう大人になってしまったんだ。もう僕のことなんて忘れてしまった。だから、僕には行くあてなんてないんだよ。」
「……。」
「だから、君と一緒に行っていいかな。“生け贄の祭壇”に行くには、あと二つの領域を越えなきゃいけない。それは大変な道のりだから、僕は、せっかく出会えた君を、助けたい。」
先程の王子の泣きそうな顔を思い出す。寂しかったのだろう。たった一人で、唯一想像してくれた光の子供にまで忘れられて……。危険な道だと知っているはずなのに、それでも申し出てくれるということは、孤独の方が恐ろしいということなのだろう。
美香は少し黙ってそんなことを考え、やがて頷いた。
「ええ。あなたが来てくれると頼もしいわ。ありがとう。」
「こちらこそ!」
王子は本当に嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあそろそろ行こうか。」
そう言って王子は立ち上がった。ちょっとぐらぐらしているが、この様子なら大丈夫そうだ。
美香は改めて辺りを見渡し、その緑の多さにほうっと息を吐いて目を細めた。
「ここは素敵な所ね。」
下生えの緑の草は足首まで埋め、その合間合間に、紫や白の花をつけた小さな野花が可愛らしく咲いている。遠く向こうの方には針のように細い木々が立ち並び、林を作っていた。その向こうに煙が見える。人家があるのかもしれない。
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