暁の剣 11
「よぉ、爺さん! チョイと待ってくんな」
二本差し(大小の刀を差している事)の身なりも悪くない侍の口から出たのは、武州辺りで使われるべらんめえ口調。
伍助もこれには意表をつかれ、何の手立てもないまま素直に従っていた。
「お武家はン、干物をお求めで?」
しかし、そこは年の功。
伍助はいささかも慌てた気ぶりを見せず、あくまでも乾物売りで通す事にした。
「何ィ? 俺をそこらの阿呆侍と同類だと思ってやがんな、このジジイ!
いいから、兵庫の野郎がくたばっちゃいねぇのかどうかとっとと吐きやがれ!」
ポンポンと小気味よくまくしたてる言葉を耳にして、伍助は武士が誰なのかにようやく思い当たった。
「テメエ、生きてんなら便り位よこしやがれ!
こ〜のトーヘンボク!」
「そう申すお主こそ、行方知れずだったであろう?
所在が知れねば便りの送りようがござらん」
「まァ、違ぇねぇ。
ただよォ、知らねえうちに妹がおっ死んじまったのは、ずんと身にこたえたぜ」
「……済まぬ」
「馬鹿野郎、お前のせいじゃあ無ぇだろが兵庫」
立川右京は、結城兵庫ノ介の義兄であった。
当然、伍助とも面識はあったが、右京の羽振りが良すぎたため、網笠で顔が隠れると気付かなかったという次第。
「ところで、噂じゃ百人ばかりと合戦おっ始めるそうだな。
俺も身内として一枚噛んでも構わねえだろ?」
「はは、噂にのぼると数も五倍になるらしい。
義兄上(あにうえ)の気持ちだけ有り難く頂戴いたそう」
兵庫ノ介は、このやたら喧嘩っ早い義兄に実情を話し、計略の内容を告げた。
「ほほぉ、…そいつぁ剣呑至極(物騒な事)だな。
俺はそんなんでとばっちり食らうのはゴメンだぜ」
意外にアッサリと引き下がった右京。
短気者だけあって、決断も滅法早い。
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