子供のセカイ。25
「君がここから出たいなら、連れ出してあげてもいいけどねえ。だけど、君は何か大事なものをなくすことになるよ?」
女の子はきょとり、と目を丸くしたが、やがて精一杯真面目な顔をして大きく頷いた。
「うん、わかった。何かをもらうなら何かをあげなきゃいけないもんね。」
美香はびっくりしてしまった。こんな小さな子供でさえ「犠牲」の意味をちゃんと理解している。それに比べ自分は……。
「うん。じゃあ、一緒に行こうか。…あ、ついでに領域の出口とか知らないかなあ。僕たちすぐにここから出なきゃいけないんだけど。」
感動のあまりひしっと腰に抱き着いてきた女の子の頭を撫でながら、王子はのんびりと聞く。
女の子がキラキラと目を輝かせ、口を開こうとしたその時だった――。
ボフンッ!
何かが破裂するようなすごい音が聞こえて、美香たちはびくっと肩を上げた。
音がした方を見上げると、煙突から上がる煙が灰色から血のような赤色に染まっていて、もくもくと勢いよく青い空に噴き上げていた。
「わ、いっけない!」
女の子は小さな叫び声をあげると、タタタッと家の中へ走り込んでいった。美香たちも慌てて後を追った。
家は三部屋に区切られていて、一つは今美香たちがいる居間兼台所。奥にある二部屋は洗面所と寝室になっているようだ。
あちこちに花が生けてある、小ぢんまりした可愛らしい部屋を見渡していき、美香はテーブルに目を止めてぎょっとした。
テーブルには開かれた何十冊もの分厚い本と、きつい匂いを放つ薬草の束で溢れかえっていた。
テーブルの向こうの暖炉でピンクの切れはしが動いている。さっきの女の子だ。ピンク色のワンピースがよごれるのも構わず床に膝をつき、暖炉の火にかけてある錆び付いた大鍋の中身をせっせとかき混ぜている。
「……?」
いぶかしげに近づいた二人を、女の子は笑顔で見上げた。しかしその笑顔はひきつっていた。
「えへへ、かき混ぜるの忘れてた!でもこれで大丈夫!」
良かった、叔母さんが帰ってくる前に気付けて。心からホッとした様子で女の子は呟いた。
「意地悪な叔母さん」というのはよっぽど女の子につらく当たっているのだろうか。何を作っているのか知らないが、女の子は失敗することに対して明らかに怯えている。だからこそ自由になりたいのだろう。
女の子はきょとり、と目を丸くしたが、やがて精一杯真面目な顔をして大きく頷いた。
「うん、わかった。何かをもらうなら何かをあげなきゃいけないもんね。」
美香はびっくりしてしまった。こんな小さな子供でさえ「犠牲」の意味をちゃんと理解している。それに比べ自分は……。
「うん。じゃあ、一緒に行こうか。…あ、ついでに領域の出口とか知らないかなあ。僕たちすぐにここから出なきゃいけないんだけど。」
感動のあまりひしっと腰に抱き着いてきた女の子の頭を撫でながら、王子はのんびりと聞く。
女の子がキラキラと目を輝かせ、口を開こうとしたその時だった――。
ボフンッ!
何かが破裂するようなすごい音が聞こえて、美香たちはびくっと肩を上げた。
音がした方を見上げると、煙突から上がる煙が灰色から血のような赤色に染まっていて、もくもくと勢いよく青い空に噴き上げていた。
「わ、いっけない!」
女の子は小さな叫び声をあげると、タタタッと家の中へ走り込んでいった。美香たちも慌てて後を追った。
家は三部屋に区切られていて、一つは今美香たちがいる居間兼台所。奥にある二部屋は洗面所と寝室になっているようだ。
あちこちに花が生けてある、小ぢんまりした可愛らしい部屋を見渡していき、美香はテーブルに目を止めてぎょっとした。
テーブルには開かれた何十冊もの分厚い本と、きつい匂いを放つ薬草の束で溢れかえっていた。
テーブルの向こうの暖炉でピンクの切れはしが動いている。さっきの女の子だ。ピンク色のワンピースがよごれるのも構わず床に膝をつき、暖炉の火にかけてある錆び付いた大鍋の中身をせっせとかき混ぜている。
「……?」
いぶかしげに近づいた二人を、女の子は笑顔で見上げた。しかしその笑顔はひきつっていた。
「えへへ、かき混ぜるの忘れてた!でもこれで大丈夫!」
良かった、叔母さんが帰ってくる前に気付けて。心からホッとした様子で女の子は呟いた。
「意地悪な叔母さん」というのはよっぽど女の子につらく当たっているのだろうか。何を作っているのか知らないが、女の子は失敗することに対して明らかに怯えている。だからこそ自由になりたいのだろう。
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