携帯小説!(PC版)

夕覧

[207]  2009-06-17投稿
いわく、猫と何やらは高いところが好きらしい。じゃあ僕が会社の屋上から夕陽を眺めているのも、知らないうちに猫になってしまっているか、それとも馬鹿だったりするせいなのだろうか。
でも僕には尻尾も生えていなければアンテナ代わりとなる長いひげもない。
まあ要するに馬鹿だということなのだろう。どちらでもいいことなのだが、別に僕は高い場所が好きというわけではない。たまたまオフィスから西の窓を見て、その先に赤い夕陽が見えたからここにいるだけだ。
夕陽をまじまじと眺めるのはずいぶん久しぶりだった。視界の端にそれが入ることこそあれど、まぶしいばかりで時には、邪魔ですらあった。
幼いころに見た夕陽は、どんなだっただろうか。今と変わらない? それとも今見るよりもっと大きくて、明るかったような気もする。
屋上の手すりに寄りかかって、ふとビルディングの下に目を向けた。すると会社の入り口前に、丁度僕と同じぐらいの背格好をした男の人が、やはり僕と同じように夕陽を見上げているのが見えた。 今日は早めに仕事を切り上げて、帰ることにする。夕陽を眺めながらの帰途は、多分いつもと異なる感慨を僕にもたらすだろうから。

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