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子供のセカイ。27

[412]  アンヌ  2009-06-20投稿
「……その叔母さんっていうのはどこにいるの?」
珍しく不機嫌な様子の王子が聞くと、リリィはハッと肩を強張らせた。
「いけない!早く準備してここから逃げなきゃ!今叔母さんは街に行ってて、もうすぐ帰ってくるの。」
リリィが大急ぎで寝室の方へ駆けていくのを、王子は複雑そうな顔で見送った。美香はそれを見咎めてムッと眉を寄せる。
「何よ。まだリリィが魔女なことに不満があるの?」
「……領域を越える時、あの子の魔法の能力が犠牲となることを祈るよ。」
王子はわりに冷たい声音で言うと、戸口に向かって歩いていった。美香にはなぜ王子がそんなに魔女を嫌うのか理解できなかった。
しばらくすると、リリィが両手いっぱいに空のビンを持って戻ってきた。
「お姉ちゃん、お願い。手伝って!」
「……私はお姉ちゃんじゃなくて、美香って名前なの。美香でいいわ。」
「じゃあ美香、一緒に傷薬をビンに詰めてくれる?」
そう言いながらも早速木のお玉で、大鍋の中身のどろどろした白い液体をビンに流し込み始めた。美香も暖炉の横にかけてあったお玉を手に取り、同じようにした。
「ここはやっておくから、あなたは出発の準備をしてきなさい。」
「…!うん、ありがとう!」
リリィは立ち上がると、なぜか家の外へ飛び出していった。外へ出ている王子と鉢合わせるのではないかと一瞬不安がよぎったが、どのみちこれから一緒に進んでいく仲間なら慣れることも必要だろう。そう考え直して美香は作業を続けた。
美香はまだ火でぐつぐつしている傷薬をすべてビンに流し込むと、冷ますために蓋は開けておいてそれをテーブルの下に並べた。全部で大ビン三つと中ビン一つ、小ビン二つに分けられた。
火かき棒で灰をかき寄せて火を消していると、ドアが開く音がして振り返った。
「リリィ?……!!」
美香は絶句して凍りついた。
そこにはエプロンをつけた大柄な中年女性が、仁王立ちで立っていた。ドア枠に頭をぶつけるすれすれくらいまである高い身長。日焼けした肌に、風に吹きさらされた赤い頬。何よりその刺すような冷酷な瞳が美香から思考能力を奪っていた。ぎゅっと固く引き結んだ唇からは、どう見ても美香を歓迎してくれる様子がうかがえない。

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