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人斬りの花 10

[416]  沖田 穂波  2009-06-20投稿

2-5 椿

抄司郎と女は角の一室に案内された。

『この部屋は馴染みの客専用だから,自由に使うといいよ。』

トシはそう言うと,親切な笑顔を見せて出て行った。



女の目は,覚めない。

抄司郎は女の左頬の傷を見た。

やはりどう見ても,
四年前,自分がつけた傷だ。

では何故,女は盲目ではないのだろう。

一番の謎はそれだ。

盲目などすぐに治るものではない。ましてや治る事など,ごくまれである。

― 別人なのではないか。

抄司郎は心のどこかでそれを望んでいた。
もし本人なら‥
武部の命により,斬らねばならない。
だが,
斬ってしまえば,
先ほど追っ手から女を助けた責任がないではないか。


「救った命は最後まで面倒をみるのが道理ってもんだ。」

昔,道場の主が言った。
幼い頃から忠実に剣に励んできた抄司郎は,
人斬りとなってしまった今,この教えだけは何としてでも守りたいと思った。
元はと言えば,
女を斬る必要など無いではないか。

武部は未だ,
何故斬らねばならないのか言わないのだ。


― 何故‥?

様々な葛藤が抄司郎を悩ませた。


≠≠続く≠≠

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