人斬りの花 10
2-5 椿
抄司郎と女は角の一室に案内された。
『この部屋は馴染みの客専用だから,自由に使うといいよ。』
トシはそう言うと,親切な笑顔を見せて出て行った。
†
女の目は,覚めない。
抄司郎は女の左頬の傷を見た。
やはりどう見ても,
四年前,自分がつけた傷だ。
では何故,女は盲目ではないのだろう。
一番の謎はそれだ。
盲目などすぐに治るものではない。ましてや治る事など,ごくまれである。
― 別人なのではないか。
抄司郎は心のどこかでそれを望んでいた。
もし本人なら‥
武部の命により,斬らねばならない。
だが,
斬ってしまえば,
先ほど追っ手から女を助けた責任がないではないか。
「救った命は最後まで面倒をみるのが道理ってもんだ。」
昔,道場の主が言った。
幼い頃から忠実に剣に励んできた抄司郎は,
人斬りとなってしまった今,この教えだけは何としてでも守りたいと思った。
元はと言えば,
女を斬る必要など無いではないか。
武部は未だ,
何故斬らねばならないのか言わないのだ。
― 何故‥?
様々な葛藤が抄司郎を悩ませた。
≠≠続く≠≠
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