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ほんの小さな私事(27)

[394]  稲村コウ  2009-06-25投稿
高野さんたちと別れたあと、私は、寺の敷地内にある家に歩いていった。
木造の平屋建てで、随分と年期のはいった建物だが、日頃から、隅々まで手入れされているようで、壁が日にやけているものの、佇まいはしっかりしている。
庭も手入れが行き届いていて、木々の並びも美しく、木の葉も丁寧に掃除されているようだ。
私は、玄関の扉をあけつつ「ただいま戻りました」と言って敷居をまたいだ。
「あら、お嬢ちゃん、おかえり。」
私の声を聞きつけて、玄関までやってきて、出迎えてくれたのは、この寺の檀家さんである藤沢さんだった。
祖父は今日、町内の葬儀で経をよみにいっているので、家の事は、藤沢さんが引き受けてくれているのだ。
「どうだい、学校は?馴染めそうかい?」
「はい。今日が初日でしたが、クラスの皆さんとも仲良くなれましたし、お友達も出来ました。いい学校ですね。」
私がそう藤沢さんの問いかけに答えると、藤沢さんは、にっこり笑顔を見せて言った。
「そりゃあ良かった。嬢ちゃんは都会のいいとこ暮らしだったそうじゃない。そんなんでこっちの暮らしとか不便ないかとか、おばちゃん、心配でねぇ。」
そう。私は東京で暮らしている時は、大きなマンションで暮らしており、家政婦などに面倒を見てもらいつつ生活していた。藤沢さんは、そういった所から、色々心配かけてくれているのだろう。

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