人斬りの花 12
2-7 椿
『そうか討ち取ったか,ご苦労だったな。』
抄司郎は,
武部に大海屋の京右衛門が死んだ事を伝えた。
それを聞いた武部は機嫌良く話し始めた。
『あとは石澤の娘さえ死ねば我が商いも安泰だ。お前の仕事もようやく一段落する。どうだ,まだ娘は見つからんのか。』
『‥はい,未だ。』
武部には,
まだ刀傷の女の事は,伝えたくなかった。
伝えれば,例え女が別人であろうと,斬れと言うはずだ。
『やはりな。だが安心しろ,この間から私の幹部数名に娘を探索させている。だから次期に見つかるだろう。』
『失礼ですが,もう町を出ていると言うことはないのですか‥?』
四年間見つからなかった女である。そう考えた方が無難な筈だ。
『それは,あり得んな。あんな刀傷の目立つ娘が町を出たら,誰かが気付くだろう。手掛かりがないと言うことは,娘はまだこの町にいる。』
― そこまでして石澤の娘を?
抄司郎にはやはり武部の心中がわからない。
『何故,娘を斬る必要があるのですか?』
遂に尋ねた。
武部はちらりと抄司郎を見て苦笑し,
『何故‥何故か‥。』
独り言のように呟いた。
『理由は‥,無いな。』
『‥は?』
武部は立ち上がった。
『邪魔者は斬る。
それだけのことさ。』
完璧主義な男だけに,石澤の血を断たせるまでは満足しないらしい。
抄司郎は,今まで武部の勝手な性格で,死ぬ必要のない命を奪ってきたことになる。
『何だその目は。』
抄司郎は自然と武部に軽蔑の目を向けていた。
『馬鹿げているとでも言いたいのか。』
武部は再び苦笑した。
その憎らしい笑いを見て抄司郎に,押し殺していた憎しみが溢れた。
『俺も人間なんだ。人を斬る度,胸が痛む。
あんたの命令にはもう,従えない。』
立ち上がり,その場を去った。
武部は引き止めない。
『お前は‥俺の見込み違いだったようだな。』
と,
抄司郎を目で見送った。
≠≠続く≠≠
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