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子供のセカイ。32

[390]  アンヌ  2009-06-30投稿
これが最後の質問だ。そう心に決めて、美香は重い口を開いた。
「……リリィ、殺したいほど叔母さんが憎かったの?」
「……?憎かったよ?だって私をいじめるんだもん。」
「……じゃあなぜ自分で戦わないの?王子を操ってこんな酷いことをさせて。胸が苦しくなったりしないの?罪悪感はないの?」
リリィの答えは単純明快だった。
「ないよ。だってこの人さっき自分で言ってたじゃない。自分は王子だから、魔女にやられちゃうんだって。だったら利用してもいいでしょ?何が悪いの?」
もう、これ以上何も聞きたくなかった。
「美香、叔母さんの血が……。」
リリィが慌てて差し出してきたハンカチを無視して、美香はふらふらしながら、王子の傍らに膝をついた。
「王子、平気?」
「僕は平気だよ。美香ちゃんこそ、ほら、血がついてる……。」
弱々しく笑った王子は、青ざめた顔をしていて、ちっとも平気そうには見えなかった。しかし彼は白い手をゆっくりと伸ばして、美香の頬に触れた。魔女の血を拭う。そのいたわるような、慈しむような手つきに、美香は泣きそうになった。一緒に言い様のない悲しみや恐怖が消えていくような気がした。
「立てる?」
「うん、大丈夫だ。」
美香は王子の脇に腕を差し入れ、肩を抱くようにして立ち上がるのを助けた。王子は体に力が入らないのか、美香に寄り掛かってどうにかこうにか立ち上がった。魔法はそれほど身体にダメージを与えるものなのか、それとも王子に対して異常に効き目がありすぎるのか。どちらにせよ、美香の中でリリィに対する嫌悪感は強まるばかりだった。
「リリィ、最後に一つだけ答えて。」
「……っ。」
「ここの領域の出口はどこにあるの?」
美香の冷たい声音や態度に、リリィは戸惑った。何で美香は怒っているの?まるで心当たりがない。早く助け出せなかったことについては、もう謝ったはずなのに……。
「家の裏手にはしごがあって、それを使って屋根に登って、煙突にも登って、そのてっぺんだけど…でも…!」
「……そう、ありがとう。」
「わ、私は?連れてってくれるんだよね!?」
美香は答えなかった。振り向くことさえせず、王子と二人、互いに互いを支え合うようにして戸口から外へ出ていった。
リリィは呆然と立ちすくんだ。涙さえ出ず、ただ虚ろな瞳で、じっと叔母の死体を見つめていた――。

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