最期の恋(2)
「まあまあ、そう膨れないの。だいたいあなたが、私と張り合おうなんて十年早いんだから。じゃあ、お先にね」
私は手を振って更衣室を出た。ちょっと悔しそうに「お疲れ様でした」と言う声が、背中に聞こえた。
?
今年の二月。
高校のスキー合宿で脚を骨折したコウが、長野県の外科病院から、私の勤める佐倉総合病院に転院してきた。
膝の形成手術を受けたあと、私の受け持つ外科・整形の病棟に入院してきたのがコウとの出会いだった。
もちろんその時のコウは、大勢いる入院患者のひとりであって、特別に意識していた訳ではない。
しかし、ベッドから動けないコウの付き添いが、昼間しか来られなかったために、朝夕の食事の介助や下の世話は、私が面倒を見るようになった。大きな病院であれば部下の看護師に任せて、婦長が入院患者の世話をすることなど、ほとんどない。しかし、総合病院とは名ばかりで、個人医院と大差のない佐倉総合病院には、そんな人的余裕などありはしなかった。
若い男の子らしく、食事の介助はともかく、下の世話をされることをコウはすごく嫌がった。常に忙しそうな私たち看護師への遠慮もあってか、排泄の回数が極端に少ない。有り難くないと言えば嘘になるが、病院である以上、たとえ整形の患者であっても放置はできない。
私は何時間も排泄を耐えるコウに、厳しく注意した。
それからは、多少入院生活にも慣れてきたのか、無理な我慢はしなくなった。
入院から一週間ほど経った朝のことだ。
いつものように、ベッドの周りにカーテンを巡らせて、便を取ってやろうとすると、妙にソワソワした様子で断ろうとする。便秘に悩まされている私が羨ましく思うくらい、毎朝決まった時間に排便するコウには珍しい。
「今日はどうしたの?毎朝7時にはちゃんとウンチが出るじゃない?」
私が心配して尋ねても、ろくに返事もしない。その日は午前中の手術介助な入っていて、時間に追われていた私は、強制的に布団を剥ぎ取り、便器をあてがおうとした。
その次の瞬間、コウの不可解な態度の理由を理解した。
私は手を振って更衣室を出た。ちょっと悔しそうに「お疲れ様でした」と言う声が、背中に聞こえた。
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今年の二月。
高校のスキー合宿で脚を骨折したコウが、長野県の外科病院から、私の勤める佐倉総合病院に転院してきた。
膝の形成手術を受けたあと、私の受け持つ外科・整形の病棟に入院してきたのがコウとの出会いだった。
もちろんその時のコウは、大勢いる入院患者のひとりであって、特別に意識していた訳ではない。
しかし、ベッドから動けないコウの付き添いが、昼間しか来られなかったために、朝夕の食事の介助や下の世話は、私が面倒を見るようになった。大きな病院であれば部下の看護師に任せて、婦長が入院患者の世話をすることなど、ほとんどない。しかし、総合病院とは名ばかりで、個人医院と大差のない佐倉総合病院には、そんな人的余裕などありはしなかった。
若い男の子らしく、食事の介助はともかく、下の世話をされることをコウはすごく嫌がった。常に忙しそうな私たち看護師への遠慮もあってか、排泄の回数が極端に少ない。有り難くないと言えば嘘になるが、病院である以上、たとえ整形の患者であっても放置はできない。
私は何時間も排泄を耐えるコウに、厳しく注意した。
それからは、多少入院生活にも慣れてきたのか、無理な我慢はしなくなった。
入院から一週間ほど経った朝のことだ。
いつものように、ベッドの周りにカーテンを巡らせて、便を取ってやろうとすると、妙にソワソワした様子で断ろうとする。便秘に悩まされている私が羨ましく思うくらい、毎朝決まった時間に排便するコウには珍しい。
「今日はどうしたの?毎朝7時にはちゃんとウンチが出るじゃない?」
私が心配して尋ねても、ろくに返事もしない。その日は午前中の手術介助な入っていて、時間に追われていた私は、強制的に布団を剥ぎ取り、便器をあてがおうとした。
その次の瞬間、コウの不可解な態度の理由を理解した。
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