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最期の恋(13)

[384]  MICORO  2009-07-09投稿
ものすごい勢いでお弁当を平らげるコウの食欲に、私は目を丸くした。
「夕食のあとなのに、よくそんなに食べられるわね」
私が呆れて言うと、コウは箸を止めずに答える。
「だって、すごく美味しいんだもん。僕、こんなにふっくらとして美味しいおむすび、食べた事がないんです。いつも、コンビニとかスーパーのばっかりだから。
この玉子焼きもハンバーグも、すごく優しい味がするし…。
でもホントのことを白状しちゃうとね、夕食を食べないで我慢してたんです。
ずっと前に、約束したじゃないですか。退院するまでに一度お弁当を作ってきてあげる、って」
確かに、そんな会話もあったような気がする。
「でも、コウ。もし私が約束を忘れてて、お弁当を持って来なかったら、どうしてた訳?売店だって、とっくに閉まってるし…」
「うーん…。餓死してたかも…。でも、きっと来てくれるって信じてた。だって、今夜来てくれなかったら、さゆりさんと二度と逢えなくなるような気がしてたから…。
だから…、そんなの嫌だから、我慢出来ないから、信じるしかなかったんだ」
コウのキラキラした瞳から、涙が一筋零れて頬を伝った。
私はコウの涙に、いつも感動させられてしまう。
手術の後、麻酔が切れかけた時も、傷口が痛む時も、リハビリで苦しい思いをした時も、決して涙は見せなかった。
実の母親との別離を話す時でさえ、そうだった。
そのコウが涙を見せるのは、いつも私のこと。
私に朝の生理現象を見られた時。
乳癌で苦しみ悩んだ話を聞いた時。
そして、今。
私なんかの為に、涙を流してくれるコウが、堪らなく愛しい。
私はコウの手を取り、自分自身を戒めている鎖を解いて、訊ねた。
「コウ…。退院しても、たまには私と逢ってくれる?」
コウがしっかりと手を握り返す。
「当たり前じゃないですか。さゆりさんに逢えるんだったら、僕、どこにでも生きます。もしさゆりさんが逢ってくれないなんて言ったら、自分で骨を折って、また入院して来ますから」
コウのその言い方がおかしくて、私は涙を浮かべたまま噴き出してしまった。

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