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最期の恋(26)

[402]  MICORO  2009-07-13投稿
コウは続ける。
「そして夏川主任が、言ってた。
『人間は死んじゃったら、すべてがおしまい。私はナースだからよくわかるの。天国も地獄もない。来世なんてもちろんない。だから、喜びもないけど、苦しみも悲しみもない。だから、もしかしたら、それがいちばん幸せなのかも知れないね』って。
『でも私はね、できれば二人で死ぬより、孝一君に吉村婦長の最後を看取ってあげて欲しい。そして、ずっと生きていて欲しい。
孝一君がそうしてあげたら、吉村婦長は最期の瞬間までずっと幸せでいられるよ。
死んで灰になってしまっても、孝一君の心の中では、ずっと生き続けられる』
夏川主任に言われて、ショックだったけど、涙が止まっちゃった。
僕が泣いてる場合じゃないって」
コウの話を聞いて、胸が熱くなった。
せっかく笑顔で話す自信がついていたのに…。
コウは続ける。
「僕が落ち着いたのを見てね、あの人、またスゴイことを簡単に言うんだ。
『高校なんて休学しちゃえば?』って。
僕が驚いて、なぜ?って聞くとね、
『これからの一年間って、孝一君の将来にとって、どれくらい大事なの?いちばん好きな人が命懸けで残してくれる愛情と、入試の為だけの受験勉強。どちらが君の将来にとって、プラスになるんだろう。
それに、手術を受けないでいたら、あと何ヶ月かで吉村婦長は、自分では何も出来なくなるよ。今度は孝一君が吉村婦長のウンチとってあげて、入院中の仕返ししてやらないと』だって。
夏川主任って、イイ女だよね」
私は無言で頷いた。
「ホントはね、僕はさゆりさんに手術を受けてほしい。一分でも一秒でも長く、そばにいて欲しい。おっぱいを無くしたって、髪が抜けたって、さゆりさんはさゆりさんなんだから」
「コウ…」
「でもね、さゆりさんが最期まで、心も身体も女性でいることを望むのなら、僕は反対はしない。それはもう、僕なんかが口を挟める問題じゃないから。
さゆりさんがどちらを選ぶにせよ、僕の気持ちは少しもかわらない」
私の心は揺れた。
しかし、決心は変わらない。
「ありがとう、コウ。でも私、やっぱり死ぬまで女でいたい…。病院の冷たいベッドで、意識もなく生かされるより、コウの温もりを感じながら死んでいきたいの」
涙が溢れてきた。
コウはしっかりと手を握って頷いた。

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