子供のセカイ。35
しばらくそのままでいると、ザザッと砂を踏み荒らすような音が聞こえた。
二人はびくりと身を固くし、振り返る。二人の背後にはヤシの木がいく本か生え、乾いた木肌が薄闇の中、微かに浮かび上がって見えた。その太い幹の後ろに、服の裾がはためいた。誰かいる。美香と王子はしっかりと抱き合い、同じ恐怖が背中を這い上がるのを互いに感じた。服の色は、心なしか、ピンクがかっているように見えたのだ。リリィのワンピースもピンク色だった。まさか……。
「そこにいるのは誰?出てきなさい!」
王子の体が急激に強張ったのを感じた美香が、精一杯声を張って叫んだ。幹の後ろの影はぴくりとも動かない。暗がりのせいで、相手の体格も雰囲気もまるでわからない。ダメだ、怖い…!美香が思わず体を震わせ始めると、唐突に、幹の後ろから低い心地いい歌声が聞こえてきた。
東の空よ 永久に赤く染まりたまえ
西に光が死に 夜が貴方を襲おうとも
再びその唇に微笑みを浮かべ バラ色に染まりたまえ
我らは貴方の無垢な子供
貴方の下僕
我らに栄光あれ 闇に敗けようとも 永久の復活を
我らを栄え続けさせたまえ……
「この歌に、覚えはあるか?」
締めくくると同時に、低い声が鋭く尋ねてきた。相変わらず姿は見えないが、どうやらリリィではないらしい。この領域の住人のようだ。二人はほっと肩の力を抜いて体を離したが、声の質問にどう答えたらよいかわからず途方に暮れた。
「知っているのか、いないのか!」
よく通る声が詰問する。その声の反響の具合から、美香は女の人ではないかと推測した。低い声だが、間違いない。凛とした女の人の声だ……。そうするとようやく本当に安心して、美香はハッキリと答えた。
「知りません。聞いたこともありません。」
「……そうか。」
幹の後ろで、何か細長いものがすらりと引き抜かれた。美香はハッとした。知らないと答えたが、それで本当に良かったのだろうか?この歌によって彼女が何かを確かめようとしていたら?例えば、仲間の印とか。この歌を知らないと答えたことが、彼女の敵になるということだとしたら――。
「美香ちゃん、下がってて。」
王子も剣を抜き放った。美香を後ろにかばって立ち上がり、じっと相手の動きを見守る。
二人はびくりと身を固くし、振り返る。二人の背後にはヤシの木がいく本か生え、乾いた木肌が薄闇の中、微かに浮かび上がって見えた。その太い幹の後ろに、服の裾がはためいた。誰かいる。美香と王子はしっかりと抱き合い、同じ恐怖が背中を這い上がるのを互いに感じた。服の色は、心なしか、ピンクがかっているように見えたのだ。リリィのワンピースもピンク色だった。まさか……。
「そこにいるのは誰?出てきなさい!」
王子の体が急激に強張ったのを感じた美香が、精一杯声を張って叫んだ。幹の後ろの影はぴくりとも動かない。暗がりのせいで、相手の体格も雰囲気もまるでわからない。ダメだ、怖い…!美香が思わず体を震わせ始めると、唐突に、幹の後ろから低い心地いい歌声が聞こえてきた。
東の空よ 永久に赤く染まりたまえ
西に光が死に 夜が貴方を襲おうとも
再びその唇に微笑みを浮かべ バラ色に染まりたまえ
我らは貴方の無垢な子供
貴方の下僕
我らに栄光あれ 闇に敗けようとも 永久の復活を
我らを栄え続けさせたまえ……
「この歌に、覚えはあるか?」
締めくくると同時に、低い声が鋭く尋ねてきた。相変わらず姿は見えないが、どうやらリリィではないらしい。この領域の住人のようだ。二人はほっと肩の力を抜いて体を離したが、声の質問にどう答えたらよいかわからず途方に暮れた。
「知っているのか、いないのか!」
よく通る声が詰問する。その声の反響の具合から、美香は女の人ではないかと推測した。低い声だが、間違いない。凛とした女の人の声だ……。そうするとようやく本当に安心して、美香はハッキリと答えた。
「知りません。聞いたこともありません。」
「……そうか。」
幹の後ろで、何か細長いものがすらりと引き抜かれた。美香はハッとした。知らないと答えたが、それで本当に良かったのだろうか?この歌によって彼女が何かを確かめようとしていたら?例えば、仲間の印とか。この歌を知らないと答えたことが、彼女の敵になるということだとしたら――。
「美香ちゃん、下がってて。」
王子も剣を抜き放った。美香を後ろにかばって立ち上がり、じっと相手の動きを見守る。
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