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旅に…

[435]  MICORO  2009-07-17投稿
「久しぶりに旅に出てみたいなぁ」

私の呟きを聞いて、台所で洗い物をしていた妻が手を止めた。

「あら、夏休みにディズニーランドに行って来たじゃない。それに、去年のお正月には、積年の夢だった、ハワイにだって行ったし」

「あれはね、旅行って言うんだ。旅とは違う」

「…………?」

「あのなぁ、あんなふうに決められたコースを、家族で賑やかに回るのは旅とは言わないんだ」

「でも、パンフレットには『ハワイ四日間・魅惑の旅』って書いてあったわよ」

「……。それは…、旅行会社が間違ってるんだよ。最近、日本語が乱れてるからなぁ。第一、旅って、質素なイメージだろ?」
「充分、質素だったと思うけど…。フリータイムの食事、全部マックだったし。あなたは、本場のマックは一味違うって…」

「まあ、な。しかし、飛行機は邪道だ。やっぱり、地面を踏み締めて進む鉄道が、旅の基本だな。まあ、車もギリギリ許しておくが。
とにかく、通過して行く土地の匂いを感じながら行くのが、ホントの旅なんだ」

「パパ…。飛行機、怖いんでしょ?」

「そっ、それはまた別の次元の問題だ。
考えてごらん。ひとり旅とは言うが、二人旅なんて言わないだろう?家族旅行とは言うが、家族旅とは言わないだろう?


「家族が一緒じゃ、嫌なの?」

「ちーがーう!家族が一緒だと楽しい。幸せだ。だけど男は、幸せとは別に、孤独なロマンを求める生き物なんだ」

「ふうん…。それなら私にもわかる。一人で見知らぬ土地を旅して、新しい感動に出会うんだね」

「その通り!なんだ、よくわかってるじゃないか」

「うん。今、わかったの。でも、そんな旅なら、この春にも行って来たじゃない?東京本社に出張…、のはずが、修善寺温泉でしたっけ?」

「えっ?」

「ロマンは知らないけど、ロマンスには出会えたみたいだしね」

そう言うと、妻はエプロンのポケットから、角の丸いパステルカラーの名刺を取り出した…。

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