子供のセカイ。36
影がヤシの木の後ろからゆっくりと現れた。二人はまずその身長の高さに驚いた。裕に百七十センチは超えている。
そして、ピンク色に見えたマントは、実はカーキ色だった。二人共リリィへの恐怖により目のレンズが歪んでいたらしい。マントに全身をすっぽりとくるみ、フードを被っていて、顔がよく見えない。ただ美香の読み通り、女だという点については間違いないようだ。男にはない繊細な鼻や顎のライン、肩幅の狭さからそのことがわかる。しかし、それらをほとんど感じさせないほどに男らしい女性だというのも明らかだった。マントの上からでも鍛えぬかれた筋肉の動き、体の動きの滑らかさがうかがえ、慣れた様子で細身の剣を斜め下に構えている。すっくと立った様子から、自分の腕への自信と、相手を圧倒する気迫が感じられた。
両者はぴくりとも動かなかった。涼やかな風が髪をかき乱し、衣服がはためく。女がじっとこちらの様子を観察しているのが感じられる。いくらなんでも、分が悪すぎる。相手は恐らく大人で、こちらは十二歳の少女と十四、五歳の少年がいるだけだ。しかも二人共がひどく疲弊していて、美香などは泣いた後で目が赤く腫れてしまい物がよく見えなかった。
「お前たち……。」
女はわずかに驚いたように胸を反らすと、突然すとんと剣を取り落として、こちらへ走り寄ってきた。
「まだ子供じゃないか!こんな所でどうしたのだ?お父さんやお母さんは?家族はどうした?……ああっ!そっちの子は怪我をしているじゃないか!」
二人が呆然と硬直している間に、女はいそいそと背中に回していた布袋を下ろして、美香の脇に膝をついた。
中から銀色の丸い小さな箱を取り出し、蓋を開ける。どうやら薬のようだ。美香は怯んで身を引こうとするも、女はがっちりと腕をつかんで放さなかった。
そのままねっとりとした薄黄緑色の軟膏をすくい取ると、メガーテに殴られた時に切れた口の端に乱暴に塗りつける。あまりにぐいぐいと擦りつけるように塗ってくるので、傷が染みる感覚もわからなかった。
「あの、ちょっと…!」
「あの、すみません…!」
美香と王子の制止の声も聞かずに、女は手際よく手当てを続ける。「他に痛いところはないか?」と聞かれて、観念した美香は、素直に蹴られた腹が痛いと呟いた。
そして、ピンク色に見えたマントは、実はカーキ色だった。二人共リリィへの恐怖により目のレンズが歪んでいたらしい。マントに全身をすっぽりとくるみ、フードを被っていて、顔がよく見えない。ただ美香の読み通り、女だという点については間違いないようだ。男にはない繊細な鼻や顎のライン、肩幅の狭さからそのことがわかる。しかし、それらをほとんど感じさせないほどに男らしい女性だというのも明らかだった。マントの上からでも鍛えぬかれた筋肉の動き、体の動きの滑らかさがうかがえ、慣れた様子で細身の剣を斜め下に構えている。すっくと立った様子から、自分の腕への自信と、相手を圧倒する気迫が感じられた。
両者はぴくりとも動かなかった。涼やかな風が髪をかき乱し、衣服がはためく。女がじっとこちらの様子を観察しているのが感じられる。いくらなんでも、分が悪すぎる。相手は恐らく大人で、こちらは十二歳の少女と十四、五歳の少年がいるだけだ。しかも二人共がひどく疲弊していて、美香などは泣いた後で目が赤く腫れてしまい物がよく見えなかった。
「お前たち……。」
女はわずかに驚いたように胸を反らすと、突然すとんと剣を取り落として、こちらへ走り寄ってきた。
「まだ子供じゃないか!こんな所でどうしたのだ?お父さんやお母さんは?家族はどうした?……ああっ!そっちの子は怪我をしているじゃないか!」
二人が呆然と硬直している間に、女はいそいそと背中に回していた布袋を下ろして、美香の脇に膝をついた。
中から銀色の丸い小さな箱を取り出し、蓋を開ける。どうやら薬のようだ。美香は怯んで身を引こうとするも、女はがっちりと腕をつかんで放さなかった。
そのままねっとりとした薄黄緑色の軟膏をすくい取ると、メガーテに殴られた時に切れた口の端に乱暴に塗りつける。あまりにぐいぐいと擦りつけるように塗ってくるので、傷が染みる感覚もわからなかった。
「あの、ちょっと…!」
「あの、すみません…!」
美香と王子の制止の声も聞かずに、女は手際よく手当てを続ける。「他に痛いところはないか?」と聞かれて、観念した美香は、素直に蹴られた腹が痛いと呟いた。
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