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僕の闘病日記

[381]  フローラル  2009-07-23投稿
一時間ぐらい前に目を覚ました僕は、病院のベッドの上にいた。

僕は大阪市内に住む14歳。まだ毛が生えてきたばかりの年頃の男だ。


 なぜだろう。確か今日はテストで早く終わったから、12時にはいつもの駄菓子屋の前にいた。
僕は下校途中にいつもその駄菓子屋に行く。母を待つためだ。

母は87歳。専業主婦をしている。みんなは、おばあちゃんとか馬鹿にするが、僕にとってはたった一人のお母さんだ。
僕を産んだ時、母は73歳だった。確かに高齢出産かもしれない。しかし元気に産んで、育ててくれた母を僕は誇りに思う。
僕が生まれた時、母のおっぱいは垂れ下がっていたと父に聞かされた。若い頃はデパートの婦人服売り場のチラシで、モデルをしていただけある豊満な母の乳は、僕を産んだ時にはおへそ辺りまで垂れていたと、父は言う。僕はその乳を上に持ち上げ、母の左肩から『ヒョイっ』と顔を出して飲んでいたと、父はよく聞かせてくれた。

 父は、その時18歳だった。


母は毎日その駄菓子屋に僕を迎えに来てくれる。
杖を点いて来てくれる。
そして勉強の後に食べるお菓子を買ってくれる。
その後、水筒に入った手作りのジュースを飲むと、僕は眠くなる。ここからはいつも覚えてないが、杖を点いた母がおんぶして連れて帰ってくれるらしい。だから僕は駄菓子屋からの帰り道を知らない。

『いつものパターン』だ。

そう、いつものパターンなら今頃、お家のフカフカした布団で目が覚める。
でも今日は違った。病院のベッドの上だった。


 誰もいないようだ。
病室を見渡すと、母の杖は置いてるがいない。
お線香のような、母独特の匂いはかすかに残っているが見当たらない。
どこの病院なんだろう。誰の声も聞こえないし、足音も聞こえない。
その病室は静かな時が流れていた。


僕はふと気付いた。



『うぉぉぉ〜、寂しいぃ〜』


僕は寂しさという感情を手に入れた。

それと引き換えに、母は死んでいった。

富貴恵、87歳、永眠。

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