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ポジティブ・アクション

[779]  ミッシェル  2009-07-25投稿

午後8時頃。

激しく降る雨が、夜の歓楽街を叩きつける。

しかし、それでも人々は縦横無尽に歓楽街を歩き回り、何時もと変わらず多くの人々で賑わっていた。

眩しく光るネオン。沢山の人々を見下ろす無数の摩天楼。

そこはまさに眠らない街である。


「今日は遅いな」

一台の黄色いタクシーが、高級レストランの入り口の前に停まっていた。

そのタクシーの運転席にて、男が煙草を吹かしながらレストランの入り口を見つめている。

フロントガラスを何度も往復するワイパーは、決して崩れる事のない一定のリズムを刻んでいた。

やがて8時15分を廻った頃、レストランの入り口から1人の若い女性が姿を現した。

女性はなるべく雨に打たれまいと必死にタクシーに向かって走り、そのドアを勢いよく開け放つ。

そして車内へと飛び込み、そのドアを勢いよく閉めた。

「ハァ、ハァ、酷い雨ね。もうこんなに‥」

あの僅かな間なのにも関わらず、彼女はすでに全体を通してずぶ濡れとなっていた。

それだけ雨は激しく降っていた。

「ははっ、ごくろうさん。じゃあ行くか」

男は煙草を吸い殻に捨て、ハンドルを握った。

しかし、彼女の返事がない。

それで彼はふと、バックミラーを覗いてみる。

すると、顔を俯かせ、悲しげな表情を浮かべている彼女の顔が飛び込んできた。

彼はすかさず言う。

「どうかしたのか?」

彼女は顔を俯かせたまま

「…行きたくない」

小さな声で答えたが、彼には勿論聞こえていた。

「どうしたんだ」

「ごめん‥何でもないわ。早く行きましょ」

俯かせていた顔を上げ、彼女は無理やり微笑んで見せた。

「なんか気になるな。まあ、いいか」

そう言って彼はアクセルを踏み、目的地に向かって走り出した。





続く


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