人斬りの花 18
3-5 香
抄司郎は柳瀬屋へ戻った。女将のトシは,帰って来た抄司郎を見るなり,
『旦那,大変だよ!』
青い顔をして駆け寄った。
『おっかない妙な連中があの子を探している。今さっき,うちに訪ねて来たんだよ。』
あの子とは,椿の事である。武部の手下が椿の居所を掴んだようだ。
『それで,連中は?』
『必死になって追い返したよ。だけど‥』
武部が簡単に諦める筈がない。絶対に再び現れると,抄司郎は予測した。
『連中に椿さんを渡しては駄目だ。安全な場所へ隠さなければ。』
『でも,一体どこへ?あの子の身を隠せる場所なんて,あたしにゃ心当たりがないよ。』
トシは額に汗を浮かべながら言った。
人が良いトシは自分の事のように考えた。
抄司郎は少しの間黙っていたが,
『ある。』
思い出した様に,顔を上げた。
『師匠の所だ。今すぐ師匠のいる所へ連れて行こう。』
急ぎ椿のいる部屋へ入った。
椿は自分が武部に狙われているなど知らず,何事かと言う顔をした。
『今すぐここを出ましょう。椿さんには,暫く身を隠しいて貰わなきゃならないんだ。』
『何故,身を隠すのですか?』
突然こんな事を言われても,椿はうろたえるしかない。
『それは‥。』
その時,トシの悲鳴が聞こえた。
武部の手下が現れ,強引に踏み込んだらしい。
『兎に角,来て下さい。』
椿の手を引いた。
椿は挫いた足を気にしながら,足の速い抄司郎に必死について行った。
≠≠続く≠≠
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