ポジティブ・アクション4
昼下がりの午後、何時ものように一台の黄色いタクシーが歓楽街を走っていた。
昨日の天気とは打って変わり、空は蒼く輝いている。
やがて歓楽街を走るタクシーは、一軒のバーの前で停車した。
バーの入り口付近に立てかけられている看板には『HOLYLOVE』と書かれている。
タクシーから下り、男は『HOLYLOVE』の扉を開け、迷わずカウンターテーブルへと歩を進める。
「よぉスティーブ! やっぱり来たな!」
カウンターに座る長い髪の男が、間髪を入れずに彼に言った。
彼の名前はスティーブ・ロジャース。
この喧騒と欲望に満ちた街で、タクシードライバーとして平凡に暮らしている。
今日も彼は仕事の合間の息抜きとして、この行き着けのバー『HOLYLOVE』へと訪れたのだ。
「よぉアレックス」
スティーブはそう答え、ゆっくりとアレックスという男の隣りに座る。
その長い髪の男の名前はアレックス・シェパード。
スティーブとは幼なじみで、親友である。
「ケニーさん、ソーダ水を頼むよ」
向かいに立つ男に向かって、スティーブは言った。
「了解」と男は答え、手際よくソーダ水をグラスに注ぎ込む。
男の名前はケニー・ロリンズ。
頬に斜めに入った二本の深い切り傷がトレードマークだ。
ケニーはソーダ水の入ったグラスをスティーブの前へと置く。
そして、置いた時に差し出した右腕には、いくつかの銃弾の痕が見られる。
「どうも」
スティーブはケニーに礼を言い、ソーダ水を口に注ぎ込む。
「なぁスティーブ。今夜もあの娘を迎えに行くのか?」
アレックスが彼に尋ねた。
グラスを口から離し「ああ」とだけ答え、グラスの中で弾ける炭酸の泡を見つめる。
昨日の彼女の悲しげな表情が、彼の脳裏をよぎる。
―――明らかに何時もの彼女と違っていた‥
とても明るく元気いっぱいで、涙とは無縁な女性という印象が強いスティーブにとって、あの夜に見た彼女の表情はとても信じがたいものだった。
何故そんな彼女が涙を流したのか。スティーブはそれがとても気になり、今夜会った時に彼女に聞こうと心に決めた。
そして、そう心に決めると同時に、彼の中で嫌な予感が漂い始めていた‥。
続く
感想
- 16311: 続きを期待しております。 [2011-01-16]