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ポジティブ・アクション5

[526]  ミシェル  2009-07-28投稿

そして日が暮れ、午後8時を廻った頃。

高級レストランの前に停車するタクシーに、メアリーが勢い良く乗り込んだ。

「何時も悪いわね。運転手さん」

微笑みながら、メアリーはスティーブに言った。

彼女は微笑んでいるが、スティーブは昨日の彼女の悲しげな表情を思い出すと、その笑顔が偽りのものと思えて仕方がなかった。

スティーブは早速、昨日の夜の事について尋ねようとしたが、どうやらその必要は無さそうである。

「ねェ運転手さん‥あなたに話したいことがあるの‥」

先ほどの笑顔とは一変し、やはりその表情は悲しみに溢れていた。

「ははっ。何だ?」

彼は待ってましたとばかりに、明るく答えた。

「待って。その前に、お互いまだ名前知らないわよね。私はメアリー・スミスよ。あなたは?」

「スティーブン・ロジャース。スティーブと呼んでくれ」

スティーブはメアリーの方に振り向き、彼女と顔を合わせながら答えた。


二人が知り合ったのは今から一週間前。

その日の夜、スティーブは何時ものようにタクシーを走らせていた。

「はいよ。着いたぜ」

「へへっ。どうもっありがとさん」

その時、スティーブは酔っ払った客を自宅へと送り届けた所だった。

やがて彼は市街へ向かって車を走らせるが、スティーブはある光景を目にする。

「何なの!? 離して!!」

「へへっ。いいじゃねェか姉ちゃん。俺と一緒に行こうぜ」

人気の少ない住宅街で、1人の女性が酔っ払った男に絡まれていたのだ。

「たくっ‥」

それを見たスティーブはすかさず、その男に向かって何度もクラクションを鳴らす。

「な、何だ!」

男はそう言って振り返るが、強烈なライトが男の目を直撃する。

その眩しさのあまり、男は思わず腕で目を覆った。

1人の女性こと、メアリーは男の背後にいた為、ライトの光は彼女には届かない。

するとメアリーは、男がライトの光で怯んでいる隙に、その男の急所を思いっきり蹴った。

「ギャァァァア!!!!」

男は悲痛な叫びをあげ、メアリーの腕を掴んでいた手を離し、その場にうずくまった。

「うふっ。ざまぁ見ろ!」

うずくまる男にメアリーはそう吐き捨て、迷わずスティーブのタクシーに乗り込んだ。


続く

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