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奇跡 6

[483]  木村蜜実  2009-08-02投稿
「時間取らせてごめんなさいね。」
初めて見る、達也の母親…。

顔は似ている…。

「私は大丈夫です。」

軽い挨拶を済ませ、達也の母は口を開いた。

「達也の事なんだけど…。」

「はい…。」

「達也の所へ戻ってもらえないかしら…。」

「えっ…?」

突然の言葉。

「あの………。」

何故ですか…?
その言葉が出てこなかった。

「達也が事故に遭ってね、記憶喪失になってるのよ…。記憶喪失なんだけど、何故か、あなたの名前ばかり言うから、逢いたいのかと思って…。」

「あたしの名前ですか…?」

「ええ…。」

私の事を達也はまだ覚えている……。
私の中で<希望>が見えてきた。

でも、どうして達也自身、私を捜さなかったんだろう…。

「あの…達也さんは今…。」

私がお母さんに問い掛ける…。

「仕事復帰はしたんだけどね…あんまり上手くいってなくて…。やっぱり障害があるとダメなのかしらね…。少しうつ病にもなってしまって…。」

頭を抱える達也のお母さんの手は細く疲れている。
それを見たら胸が苦しくなった。

「お願いできますか…?」

涙目の瞳が私を見つめた。

「はい…わかりました。」

少しためらった。
もしかしたら、
逢ってしまったら、
達也は混乱してしまうのではないか…。
不安にも思った。
怖い……。


お母さんと別れた後、自宅へと向かう足は重く感じた。

真ん丸の満月がいつもより明るく感じた。

(よく達也と満月みたっけ…)

そう呟いたとき、達也がよく口にしてた言葉を思い出した。

私が、仕事で落ち込んでいた頃…。

『あかねは、奇跡が起きればいいのにってよく言うけど、奇跡って神様がくれるもんじゃないんだよ。奇跡は自分が作るもの。自分が頑張ればきっと奇跡が起きるんだよ。あかねは毎日努力してるから、きっと奇跡は起きるよ。だから、頑張れ。』

ポタっと涙がこぼれた…。

達也…あなたに『奇跡』が起きればいいのに…。

満月に願いを掛けながら、ゆっくり歩いた。

涙は止まらない。

私は明日、あなたに逢いに行きます。

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