暗雨
薄暗い空だった。
大粒の雨が俺の顔に容赦なく当たり、冷たく濡らす。丁度こんな日だったな。
―お前が俺の前から消えたのは。
生きてたときから自分勝手で、いつも俺を振り回していた。
その癖泣き虫で・・・。「ごめんね」なんてすぐ謝る。
「・・・ったくよぉ」雨のシャワーを顔で受け止めながら、俺は片頬を歪め、悪態をついた。人気がないので、哀しい雰囲気がより一層密度の濃いものになり、生暖かく体を包む。
―今更謝っても、
許してやんねぇぞ。
どんなに―どんなに俺がお前を探したか・・・わかってんのか?
実態をなさない愛する人―。
探しても、もがいても、叫んでも・・・。無駄だと分かってるのに、俺は闇に手を伸ばし、お前の滑らかな感触の両手を求める。
―もういないのに。
モウ、イナイノニ。
雨が降ると、お前が消えた場所に足が向く。
空中に投げ出される白くて華奢な体。漆黒の暗闇の隙間から溢れる赤い生の証。
見た瞬間、体が、凍りついた。
―怖い。お前が、目の前でどんどん冷たくなっていく。
分かってた―。
あいつは好きで、俺の前からいなくなったんじゃないって。
「・・・ごめん、な」
俯き、目を伏せる。
「前言撤回。
・・・いつでも・・・いつでも戻ってこいよ。寂しくなって、泣きたくなったら―また、戻ってきていいから」
俺の目から、雨が降る。切ない色を帯びた雨が。
―もう、ここには来ない。
今度は、俺が受け入れる番だ。
いつか、あいつが二人の住んでた部屋の扉をノックするその日まで―。
俺は、待つよ。
いつまでも。
「じゃあ、な。俺、帰るから」
あいつが消えた場所に手を降る。
雨は、どんどん降ってきて、俺の体を強く打つ。
身を翻し、アパートに向かってゆっくりと歩を進め始めた。
その時だった。
「―…」
―!!
あいつの・・・声。
振り返る。
雨が降る。薄暗い雨が。一人の男が横たわっている。
微笑みを口元に浮かべて―。それはこの世に取り残されたように美しい。
傍らには、輪郭のはっきりしない人物が、その男の頭を微笑んで優しい手つきで撫でている。
雨の音が響くなか、違う音が、微かに、
辺りに響く。
「―ねぇ、あたし、待つのは嫌だよ?」
大粒の雨が俺の顔に容赦なく当たり、冷たく濡らす。丁度こんな日だったな。
―お前が俺の前から消えたのは。
生きてたときから自分勝手で、いつも俺を振り回していた。
その癖泣き虫で・・・。「ごめんね」なんてすぐ謝る。
「・・・ったくよぉ」雨のシャワーを顔で受け止めながら、俺は片頬を歪め、悪態をついた。人気がないので、哀しい雰囲気がより一層密度の濃いものになり、生暖かく体を包む。
―今更謝っても、
許してやんねぇぞ。
どんなに―どんなに俺がお前を探したか・・・わかってんのか?
実態をなさない愛する人―。
探しても、もがいても、叫んでも・・・。無駄だと分かってるのに、俺は闇に手を伸ばし、お前の滑らかな感触の両手を求める。
―もういないのに。
モウ、イナイノニ。
雨が降ると、お前が消えた場所に足が向く。
空中に投げ出される白くて華奢な体。漆黒の暗闇の隙間から溢れる赤い生の証。
見た瞬間、体が、凍りついた。
―怖い。お前が、目の前でどんどん冷たくなっていく。
分かってた―。
あいつは好きで、俺の前からいなくなったんじゃないって。
「・・・ごめん、な」
俯き、目を伏せる。
「前言撤回。
・・・いつでも・・・いつでも戻ってこいよ。寂しくなって、泣きたくなったら―また、戻ってきていいから」
俺の目から、雨が降る。切ない色を帯びた雨が。
―もう、ここには来ない。
今度は、俺が受け入れる番だ。
いつか、あいつが二人の住んでた部屋の扉をノックするその日まで―。
俺は、待つよ。
いつまでも。
「じゃあ、な。俺、帰るから」
あいつが消えた場所に手を降る。
雨は、どんどん降ってきて、俺の体を強く打つ。
身を翻し、アパートに向かってゆっくりと歩を進め始めた。
その時だった。
「―…」
―!!
あいつの・・・声。
振り返る。
雨が降る。薄暗い雨が。一人の男が横たわっている。
微笑みを口元に浮かべて―。それはこの世に取り残されたように美しい。
傍らには、輪郭のはっきりしない人物が、その男の頭を微笑んで優しい手つきで撫でている。
雨の音が響くなか、違う音が、微かに、
辺りに響く。
「―ねぇ、あたし、待つのは嫌だよ?」
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