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ほんの小さな私事(62)

[339]  稲村コウ  2009-08-05投稿
倒れている動物は大小二匹で、片方は犬であった。
その犬は首を鋭い刃物か何かで切り裂かれており、辺り一面には、犬の首から吹き出した血で染まっていた。
山下さんはそれを見て、ショックのあまり、その場にへたりこんでしまった。
「何でこんな…。」
香取君も、その光景に驚き、言葉が詰まったが、それよりは今、へたりこんでしまった山下さんの事が気がかりである。
「立てる?」
そう聞いてみたが、山下さんは、呆然とした表情のまま、全く反応を示さなかった。
『かなりショックを受けているみたいだ…仕方ない…。』
香取君は、そう思うと、呆然となっている山下さんを抱きかかえると、そのまま廊下の先を急いだ。

その向かいから慌てて走って来たのは一人の男性教員と、用務員の山崎さんだった。
香取君とその二人がすれ違う際、男性教員の方が、香取君に尋ねた。
「おっ…と、香取か。一体、何が…あったんだ?」
そう聞いてきたのは、一年A組の担任である、倉橋先生だった。
しかし香取君は、山下さんの事があるので、早口で手短に事を話した。
「この先で犬が死んでいて…原因は判らないんですが…。それを見て山下さんが、ショック受けてしまったので、保健室に行く所です。詳しくは向こうにいる人達に聞いて下さい。」
香取君はそう言って、そのまま校舎へと足早に去っていってしまった。
「取り敢えず、その場所に行ってみようかね。」
山崎さんがそう言うと、倉橋先生は「そ…そうですね。」と、少し慌て気味に答えた。

人混みは更に増えていて、それぞれ、何をする訳でもなく、現場を取り囲んで騒いでいるだけであった。
「ちょっと…開けなさい。一体何が…。」
倉橋先生の言葉で、回りを取り囲んでいる生徒が道をあける。そして、その開けた場所に、無惨な姿で倒れ、死んでいる犬を見て、倉橋先生は一瞬、たじろいでしまった。
「だ…誰かこの事を判るヤツは?」
倉橋先生は、なるべく犬の姿を見ないように、周囲を見渡して聞いたが、誰一人して、反応する者はなかった。

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