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奇跡 2章 5

[374]  木村蜜実  2009-08-06投稿
目が覚める。

知らない女性。

知らない男性。

僕の両親。

僕は…。井上達也…?

「達也!気が付いたのね!」

泣いて叫ぶ女性。

「君は…。誰?」

「春香さんよ。あなたとお付き合いしてるでしょ?」
母は女性の肩を抱いて僕を見た。

「違う…。そんな名前じゃない…。」

僕は何を言ってるんだ。

たしかに、この人の事は知っている気がする…。

付き合っていたのは…。
やっぱり、違う。
でも、名前が思い出せない。
顔は覚えているのに…。

「達也…あたしの事わからないの?」

女性は涙を流しながら、僕の手を握る。

「ごめん…わからない…。」
僕には謝る事しか出来ない。

頭が割れそうに痛い。

「少し横になりなさい…。」

そう言って、母は女性を連れて出て行った。

「井上君、私の事もわからないのか…?」

僕は顔を見て、首を縦にふった。

残念そうにその男性も、肩を落として出て行く。

「今はいい。少し休め。何か買ってきてやるから…。」

父も重い腰を上げ、出て行く。

僕は外を眺める。

僕は、何か大事な事を忘れているような気がした。

僕は…

何故病院にいるんだろう。
何故怪我をしているんだろう…。

ここは…。

何もわからない…。

外は月が輝いて見える。

月…。
星…。

だいぶ前に、大事な人と見た記憶がある…。

誰だっけ…。

思い出せない…。

頭が痛い…。

『達也。』

顔も声も覚えているのに…。

どうして名前がわからない。

『達也、大好き。』

そう、僕も確か、その人を好きだった。

好き…ではない
愛していたんだ…。

満月が好きだったあの子…。

僕の側でいつも笑顔でいてくれたあの子…。

そうだ、
確かに覚えているんだ。

僕は忘れる事はなかった。

その子の名前は…

「あ…かね…。」

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