ライオンの恋 その1
ある日、友がこんなことを言い出した。
「おい、俺は病を患っているらしい」
「へえ、どんな?」
「わからない。だが、食欲がなくて塞ぎ込んでいると五藤が言うのだ」
五藤さんというのは、この友の健康管理を担当している職員の名である。
「原因も判らないのかい?」
少し心配になる。
「ああ、五藤も調べてみると言っていた」
友は少しの間うつむいて沈黙したが、やがてこう切り出した。
「確かに原因はわからない。
だが、いつもあの子のことを思い浮かべると胸が苦しくなるのだ」
「あの子とな?」
「そうだ。以前話しただろう。
子供をうじゃうじゃと引き連れて来た、あの子だ」
ああ、小学生の遠足。
そういえば友は後日こんなことを言っていた。
『きれいな人だなー』
ありきたりで単純だが率直で、友がその言葉どおりの印象を抱いているのだろうと思った。
「つまり、あれか。
君はその人に恋をしたのだね」
「恋?俺が?この俺が?」
「だってそうだろう?
君は今、自分が病を患っていると言ったが、それはまさしく恋患いというものだよ」
「....っ」
友は口をあんぐり開けて目を丸くしている。
ねこの驚いた顔というのはなんとも言い難く愛らしい。
「そんなばかな...!
俺には妻も子もいるというのに...」
さすが、欧州から迎えられただけあって自分の精神が理性から背かれるとは今まで考えてもみなかったらしい。
「まあ、君達はお見合い結婚だし、子孫を残すのが目的だったわけだから、そんなに思い詰めなくとも良いのではないかね」
「何を不誠実なことを言うかっ
おまえたちには人倫というものがあるのだと言ったのは偽りだったのか!」
そういえばそんな話を以前にしたことがあったやも知れぬ。
「しかし君は実際に恋をしているじゃないか。
人倫というものも確かにあるが、精神の真実を追究するもまた道理ではないか?」
「精神の真実?」
「子孫を残すばかりが生命の本懐ではないということさ」
「しかし、妻や子供たちの手前、謗りを受けるようなことはしたくない」
「誰も君を謗ったりなんてできないさ。
だって君はただ恋をしているだけで何もできることなんてないのだから」
「おい、俺は病を患っているらしい」
「へえ、どんな?」
「わからない。だが、食欲がなくて塞ぎ込んでいると五藤が言うのだ」
五藤さんというのは、この友の健康管理を担当している職員の名である。
「原因も判らないのかい?」
少し心配になる。
「ああ、五藤も調べてみると言っていた」
友は少しの間うつむいて沈黙したが、やがてこう切り出した。
「確かに原因はわからない。
だが、いつもあの子のことを思い浮かべると胸が苦しくなるのだ」
「あの子とな?」
「そうだ。以前話しただろう。
子供をうじゃうじゃと引き連れて来た、あの子だ」
ああ、小学生の遠足。
そういえば友は後日こんなことを言っていた。
『きれいな人だなー』
ありきたりで単純だが率直で、友がその言葉どおりの印象を抱いているのだろうと思った。
「つまり、あれか。
君はその人に恋をしたのだね」
「恋?俺が?この俺が?」
「だってそうだろう?
君は今、自分が病を患っていると言ったが、それはまさしく恋患いというものだよ」
「....っ」
友は口をあんぐり開けて目を丸くしている。
ねこの驚いた顔というのはなんとも言い難く愛らしい。
「そんなばかな...!
俺には妻も子もいるというのに...」
さすが、欧州から迎えられただけあって自分の精神が理性から背かれるとは今まで考えてもみなかったらしい。
「まあ、君達はお見合い結婚だし、子孫を残すのが目的だったわけだから、そんなに思い詰めなくとも良いのではないかね」
「何を不誠実なことを言うかっ
おまえたちには人倫というものがあるのだと言ったのは偽りだったのか!」
そういえばそんな話を以前にしたことがあったやも知れぬ。
「しかし君は実際に恋をしているじゃないか。
人倫というものも確かにあるが、精神の真実を追究するもまた道理ではないか?」
「精神の真実?」
「子孫を残すばかりが生命の本懐ではないということさ」
「しかし、妻や子供たちの手前、謗りを受けるようなことはしたくない」
「誰も君を謗ったりなんてできないさ。
だって君はただ恋をしているだけで何もできることなんてないのだから」
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