ライオンの恋 その2
「そうだった...」
友は俯きひどく沈痛な声で話した。
「俺にはこの檻を越えてあの子に会いにゆくことも、ましてこの胸を締め付ける思いを打ち明けることもできはしないのだった...」
友の嘆きを見ていることが辛かった。
だから、
「友よ、俺に手を貸してはくれまいか?」
そう頼られて当然の如く頷けたことをひそかに誇りに思う。
「ではまず変装しなければ...」
ハサミを取り出して弾力の素晴らしいたてがみに手をのばすと友は怒った。
「たてがみは雄の象徴だ!誇りなのだ!
そう易々と切れるか!」
「しかしそのまま外に出たのでは、近隣界隈は大騒ぎになるぞ」
布で頭部を包むことで互いに合意した。
それでも友は気まずそうに言う。
「このようにこそこそと歩かねばならぬとは...
我が身が情けない」
「だが君はあの人に会いに行きたいのだろう?」
「むろんだ。この気持ちに嘘偽りなど微塵もない」
そうして友とふたり、短い旅に出た。
途中、入手した犬の散歩用リードを友の首に巻く。
友は嫌そうに顔をしかめ首を振るのだが、カモフラージュにはうってつけなのだ。
「それは...、犬、ですか?」
吠え狂う小型犬の飼い主が怪訝そうに尋ねる。
「ええ、超大型犬ですが大人しいですよ」
(そこの囂しいのと違ってね)事実、友は知的で寡黙な紳士なのだ。
「ライオンかと思っちゃいました」
あはは、と笑う。
「はは、まさか。
犬ですよ。だってほら、足の爪が出たままでしょう?」
+笑顔で答えれば、たいてい納得される。
日本人は細かいことは考えたくないのだろうか。
ライオンはねこの中では珍しく爪を指の間にしまうようにはなっていないのだ。
おそらくはサバンナで駆け回るので足先の保護など必要な進化をとげたのだろう。
ふと、チーターも草原を駆け回るっけなー...と新たな疑問がわいてきた。
走り方や棲息域が見た目以上に異なっているのだろうか。
「何を考えに没頭しているのだ、友よ。
また論理構築に勤しんでいるのか?
今はそのような時ではないだろう」
そうだった。
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