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子供のセカイ。48

[337]  アンヌ  2009-08-10投稿
「ジーナがスープを作ってくれたわ。食べる?」
「うん。じゃあ火をおこして温めなきゃね。」
火のおこし方を知らない美香は、王子が不器用な手つきながら火をおこすのを眺めていたが、不意に王子と話をしなければいけないのを思い出した。
「王子、」
「うん。」
「私の目的は、夜明けの時に話したわよね。私はまず“生け贄の祭壇”に行き、そして舞子を説得して連れ戻すためにラ、ライ?パークへ…、」
「ラディスパークね。」
「そう、そこへ行く。あなたはどうするの?」
王子は黙り込んだまま、鍋の中身をぼんやりと木のスプーンでかき混ぜていたが、不意に怪訝そうな顔をして美香を振り返った。
「何って?僕がどうするかって聞いた?」
「ええ。」
「そんなの決まってるじゃないか。僕は美香ちゃんについていくよ。領域を出る時に、そう決めたんだから。」
王子は不機嫌だった。疲れているせいもあるだろうが、「何で今更そんなこと、」とブツブツと呟いている。
美香はそんな王子が不思議だった。嬉しい返事だが、美香はここで王子と別れることになるかもしれないと覚悟していたくらいだったから。
「王子は嫌じゃないの?私は舞子の姉なのよ、“子供のセカイ”を脅かしている張本人の。」
王子はスープを音を立てずに上品にすすりながら、横目でちらりと美香を見た。その目が、夜明けの時のような、どこか疑わしげな、品定めするような目付きに変わる。
美香は正面からその視線を受け止めた。王子には決める権利がある。今その判断を固めようとしているのなら、目を逸らしてはいけないと感じた。
ハァ、と溜め息が漏れた。王子の口から。
「やっぱり無理。」
キッパリと言い切った王子のセリフに、美香は胸をえぐられた。ああ、ダメだ。顔に出さないようにしなきゃ……。美香はいつものクセで、努めて平静な表情を保とうとした。ダメ、心配させては。気づかれてはダメ……。いつもそうやって美香が気持ちを押し殺すことで、誰とだってうまくやってきたのだから。
でも。美香は自分でも気づかない内につい顔を歪めてしまった。この優しくて穏やかで大切な仲間に拒絶されることは、何よりもつらい。
「君のこと嫌いになれないよ。」
「……え?」
だから王子の言葉も、急に相好を崩して笑いかけてきた綺麗な顔も、困惑のあまり直視することができなかった。

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