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人斬りの花 23

[417]  沖田 穂波  2009-08-24投稿

3-10 香

椿は師匠と共に,河原の長屋で抄司郎の帰りを待っていた。

『椿さんは,抄司郎に惚れているね。』

不意に師匠は言った。
椿ははっと顔を赤らめた。

『何ですか,急に。』

『いや,抄司郎を待っているお前さんのお顔が,幸せそうだからよ。』

椿は慌てて置いてあった手持ち鏡で自分を見た。

その時,
未だ消える事のない左頬の刀傷が目に止まり,そっと傷を手で隠した。

『こんな顔じゃ,人を愛する資格なんて,ありませんよ。』

どうやら椿には,頬の傷に何か苦い思い出があるらしい。

『椿さん,あの子が外見で人を判断するような人間だと思いますか。』

『‥分かりません。私,あの方の事,よく知らないんです。』

出会ってまだ間もないのだから無理もない。
だが椿が抄司郎に惹かれ始めているのは事実である。

『安心しなさい。』

『‥え?』

師匠は微笑んだ。

『今までに抄司郎があんなに必死になって守ろうとしているのは,わしが知る上では,あなた一人しかいない。』

『そうでしょうか‥。』

『そうだとも。あの子も,きっと‥』

その時,長屋の中に誰かが踏み込んだかと思うと,いきなり椿に向かって剣を振り上げた。
師匠はとっさに椿の前に立ち塞がり盾となり,
致命傷となる大きな一太刀をあびた。

『師匠さん!!』

椿は師匠の大量の返り血を浴ながら,
悲鳴混じりで師匠を呼んだ。

師匠は自分を呼ぶ椿の声を夢心地のように聞き,全身の力を振り絞って,
隅に置かれ埃を被っていた剣を抜いた。

≠≠続く≠≠

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