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からっぽ1

[772]  hiro  2009-08-30投稿
高校生の僕にとって、彼女を守ることは簡単なことではなかった。
僕の彼女は、とても重い病気にかかってしまった。
手術にはとてつもない大金が必要らしい。
当然そうなると、僕にも、彼女の家族にもお金が用意できず、手術は行えない。
僕は絶望の涙を流した。


途方に暮れて街をふらふら歩いていると、怪しげな男に声をかけられた。人気のない場所だった。
男は言う。
「君、お金のことで困っているだろ?そんな君にいい話がある」
僕がその言葉を無視してその場を立ち去ろうとすると、男は行く手をふさいで話を続けた。
「君の記憶を全部、私に譲ってくれないか。高値で買ってあげよう」
それから男はおおよその金額も口にした。
それは、彼女の手術に必要な額に相当した。
「ほ、本当ですか」
僕は男を疑ったが、僅かな希望が生まれるのを、胸に感じた。
「もちろん。いい話でしょう?」
しばらく考えた後、僕は決心した。彼女のためなら…。
「じゃあ、お願いします…。僕の記憶を売ります!」
男は小さく頷いて、僕の頭に変な機械をかぶせた。
「お金のほうは、君の彼女の家族に直接渡しておくからね」
なんでそれを!?と思ったが、男の顔を見るとなぜか、不思議な気はしなかった。

そして次の瞬間、僕の頭の中は真っ白になった。
僕は記憶をなくした。
大好きな彼女との幸せな日々も、
友達と楽しく語り合ったことも、
大切な家族との温かい毎日も、
良いことも、
嫌なことも、
辛かったことも、
嬉しかったことも、
全部、忘れた。
なにもかも、忘れた。
これもすべて、彼女のためだ。
―続く―

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