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人斬りの花 26

[460]  沖田 穂波  2009-08-31投稿

4 恋志

師匠の弔いが終わり2日が経ち,また元の長屋での生活が始まった。
2人きりの長屋に,以前よりも重い空気が流れている。沈黙が続く。

抄司郎は,その沈黙を破る様に立ち上がった。

『椿さん。』

未だ泣きじゃくる椿に,
抄司郎はゆっくりと歩み寄り言った。

『俺は,あなたを守り通します。これからも,ずっと。』

椿は濡れた目で,抄司郎を見上げた。

『今,決意しました。これが俺の,師匠の言う心のままなんです。』

『し,しかし‥!!』

思い詰めた様に椿は言った。

『私など,命を捨ててまで守る価値はありません!!私のせいで誰かが傷つくならばいっそ,あの時,斬られていれば‥。』

『椿さん!!』

抄司郎は椿の言うことを遮った。

『俺は‥』

抄司郎は椿の白い手を取り抱き寄せた。

『あなたに,死んで欲しくないんです。』

自分を頼って欲しい。
そんな思いが抄司郎を包んでいだ。

『愛する人を守るのは,当然の事でしょう。』

『‥でも,』

『守りますよ,一生。』

一生。
例え椿が拒もうと,それだけは貫き通す覚悟はあった。

『椿さん,あなたは,
俺の側で美しい花を咲かせていてくれればそれで良い。』

つまり,こう言いたかった。

『俺の花(妻)になって下さい。』

抄司郎の腕の中で,
椿はそれを夢の中の様に聞いていた。

今までに,
感じた事のない暖かさがそこにはあった。
心が満たされている。
こんな感情は椿にとって生まれて初めてだ。

『‥はい。』

椿は抄司郎の花となった。激しく抱かれながら,今感じる幸せに涙した。

抄司郎さんが自分を守るならせめて,
どんな時も,この人の美しい花であり続けよう。

椿はそう固く決意した。

≠≠続く≠≠

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