人斬りの花 26
4 恋志
師匠の弔いが終わり2日が経ち,また元の長屋での生活が始まった。
2人きりの長屋に,以前よりも重い空気が流れている。沈黙が続く。
抄司郎は,その沈黙を破る様に立ち上がった。
『椿さん。』
未だ泣きじゃくる椿に,
抄司郎はゆっくりと歩み寄り言った。
『俺は,あなたを守り通します。これからも,ずっと。』
椿は濡れた目で,抄司郎を見上げた。
『今,決意しました。これが俺の,師匠の言う心のままなんです。』
『し,しかし‥!!』
思い詰めた様に椿は言った。
『私など,命を捨ててまで守る価値はありません!!私のせいで誰かが傷つくならばいっそ,あの時,斬られていれば‥。』
『椿さん!!』
抄司郎は椿の言うことを遮った。
『俺は‥』
抄司郎は椿の白い手を取り抱き寄せた。
『あなたに,死んで欲しくないんです。』
自分を頼って欲しい。
そんな思いが抄司郎を包んでいだ。
『愛する人を守るのは,当然の事でしょう。』
『‥でも,』
『守りますよ,一生。』
一生。
例え椿が拒もうと,それだけは貫き通す覚悟はあった。
『椿さん,あなたは,
俺の側で美しい花を咲かせていてくれればそれで良い。』
つまり,こう言いたかった。
『俺の花(妻)になって下さい。』
抄司郎の腕の中で,
椿はそれを夢の中の様に聞いていた。
今までに,
感じた事のない暖かさがそこにはあった。
心が満たされている。
こんな感情は椿にとって生まれて初めてだ。
『‥はい。』
椿は抄司郎の花となった。激しく抱かれながら,今感じる幸せに涙した。
抄司郎さんが自分を守るならせめて,
どんな時も,この人の美しい花であり続けよう。
椿はそう固く決意した。
≠≠続く≠≠
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