子供のセカイ。58
それは逆光のため、黒い影の怪物にしか見えなかった。とてつもなく巨大で、二本の大きさの違う太い腕を持った恐ろしい化け物。大男の脅威が去っても、今度はこの新しい脅威のために王子は一ミリも動けなくなる。しかしその時、見知った少女が王子の側に駆け寄ってきたため、王子はハッと汗だくの顔を向けた。
「王子、大丈夫!?」
美香はへたり込んだまま動けない王子の横に膝をついた。
「……美香ちゃん…?」
「ごめんなさい、助けるのが遅くなって。こいつをどう動かせばいいのか、うまく想像できなくて……。」
美香はそう言って自分の後ろの怪物を指差した。王子はこのでかいモンスターが美香の想像の力によるものだと気づいて、ようやくその正体が目に映った。
それはサボテン地帯に生える巨大なサボテンの一つだった。ただ、まるで呼吸しているかのように、一定のリズムを刻んで微かに体を揺らしている。腕のように見えたのは横から生えたサボテンで、足の代わりに横に広がったたくさんの根が体を支えていた。顔はなくのっぺりとした表面だが、緑の肌には立派な棘がびっしりと生えている。男はいわばサボテンの腕に当たる部分がぶつかることによって吹き飛ばされたのだ。
美香は立ち上がると、サボテンとは反対方向に当たるある一点をジッと見つめた。その顔が青ざめているのを見て、王子もそちらに視線を向ける。
先程の大男が地面にうつ伏せに倒れていた。時折体がぴくり、ぴくりと痙攣しているから、息はあるのだろう。しかし飛ばされた際に近くのサボテンにぶつかったのか、その半身は血まみれだった。斧は弾みでどこかに飛ばされたのか、どこにも姿が見えない。
美香はごくりと唾を飲んだ。今にも吐きそうな顔をしていた。ただ、目だけは反らすことをせず、男に釘付けになっている。まるでそれが自分への罰だというように。あの傷を負わせたのは自分なのだと、深く脳に刻み込むように……。
ようやく動悸がおさまってきた王子は、その時、ジーナの言葉の意味がわかった気がした。美香が戦えない、本当の理由――。
「助けてくれてありがとう。」
美香は答えなかった。
「王子、大丈夫!?」
美香はへたり込んだまま動けない王子の横に膝をついた。
「……美香ちゃん…?」
「ごめんなさい、助けるのが遅くなって。こいつをどう動かせばいいのか、うまく想像できなくて……。」
美香はそう言って自分の後ろの怪物を指差した。王子はこのでかいモンスターが美香の想像の力によるものだと気づいて、ようやくその正体が目に映った。
それはサボテン地帯に生える巨大なサボテンの一つだった。ただ、まるで呼吸しているかのように、一定のリズムを刻んで微かに体を揺らしている。腕のように見えたのは横から生えたサボテンで、足の代わりに横に広がったたくさんの根が体を支えていた。顔はなくのっぺりとした表面だが、緑の肌には立派な棘がびっしりと生えている。男はいわばサボテンの腕に当たる部分がぶつかることによって吹き飛ばされたのだ。
美香は立ち上がると、サボテンとは反対方向に当たるある一点をジッと見つめた。その顔が青ざめているのを見て、王子もそちらに視線を向ける。
先程の大男が地面にうつ伏せに倒れていた。時折体がぴくり、ぴくりと痙攣しているから、息はあるのだろう。しかし飛ばされた際に近くのサボテンにぶつかったのか、その半身は血まみれだった。斧は弾みでどこかに飛ばされたのか、どこにも姿が見えない。
美香はごくりと唾を飲んだ。今にも吐きそうな顔をしていた。ただ、目だけは反らすことをせず、男に釘付けになっている。まるでそれが自分への罰だというように。あの傷を負わせたのは自分なのだと、深く脳に刻み込むように……。
ようやく動悸がおさまってきた王子は、その時、ジーナの言葉の意味がわかった気がした。美香が戦えない、本当の理由――。
「助けてくれてありがとう。」
美香は答えなかった。
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