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ほんの小さな私事(91)

[336]  稲村コウ  2009-09-09投稿
保健の先生は、私のいる側にやってくると、私の事をまじまじと眺めた。
「ほー。ふむふむ。ほほぅ。なるほど。」
「ええと…なんでしょう?」
治療を放置され、騒いでいる男子生徒を無視しつつ、保健の先生は、私を見渡し、何度も頷く。私はただただ、困惑するばかり…。
「うむ。そういう事か。お前さん名前は?」
唐突そう聞かれ、やはり困惑しつつも私は自分の名前を言った。すると、先生は、『やっぱり』といった表情を見せた。
「お前さんかぁ、あのジジィの孫娘ってのは。何となくそうなんじゃないかと思ってたよ!」
そう言いながら、彼女は私の肩をポンポンと叩く。
「あ…の。お祖父さまの事を知っているのですか?」
そう聞いてみると、彼女は、ニッと笑いながら答えた。
「知ってるも何も、お前さんとあたしゃ、親戚同士!まあ、お前さんとは、物心つくかつかかないぐらいン時にしか会ってないからネェ。判らないのもしょうがない。しっかし…えらく発育したもんだねぇ。」
いきなりそう言われ、驚く私。近所に親戚がいるとは聞かされていたものの、まだ今のところ、それぞれに挨拶に行っていないので、どんな人が親戚にいるのかもわかっていなかったが、まさかこんな身近に居たとは、想像もしていなかった。
「おっと。こっちの名前も言っとかなきゃね。加藤なつきってんだ。あんたんとこのジジィの末兄弟の娘さ。よろしくな。」
彼女…なつきさんは、眠そうな顔の割には、早口でガンガン喋る。私は始終、圧倒されっぱなしであった。
「あの…それはそうと…後ろの方々…。あと、私も少し、急いでいまして…。」
私がそう言うと、なつきさんは、拍子の抜けた顔を見せて言った。
「はあ〜、感動の対面ってのにツレナイねぇ…。清音ねーさんソックリだわ。そういうトコ。」
清音…というのは、私の母の名前である。それを聞いて少し、なつきさんともう少し喋りたい所ではあったが、今は山下さんの事が優先である。
このままここで喋っていてもらちがあかないと判断した私は、なつきに悪いと思いつつも、「すみません、また…間を見て伺います。」と言いながら、一礼して、保健室を後にした。

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