MLS-001 025
俺が
知識不足な分、
圧倒的に不利だな。
皇鈴は、
相変わらず
クスクス笑いながら、
明広の向かいの席に
斜めに座った。
「分からないことは
訊きなさい。
私の知ってることなら、
何でも教えてあげる。
その代わり…」
「鈴さん。」
店の主人が、
カウンターごしに
女の声を遮った。
「あっ、いつもの2つ。」
応えた皇鈴の声は、
明広に話しているときより
半オクターブは高かった。
おまけに、細い左手で
ピースまで
作って見せている。
「ここのコーヒー飲んでけば、
朝から百人力よ。」
主人は
笑顔でうなずいた。
代わりに、の続きは何ですか?
調子がいい女の声に
つい、心中、
催促してしまった後で
少しばかり後悔した。
交換条件なんか、
聴いてないなら
聴いてないで良かったかもな。
「ちゃんと探しなさいね、
ってだけ。」
言われなくても、だ。
「でしょ?
私、これでも
貴方のこと、
高く買ってるんだから。」
なら、俺のこと、わら…
…言語化、
しなけりゃいいんだよな。
明広は、
思考を止めた。
白い壁の中程に開く
出窓の外、
庭にある木々の
夏先の新緑繁る枝々の間から
こぼれ落ちる
朝の木漏れ日。
その
逆光の中で、
木目の美しい
テーブルの表面を
ぼんやりと見つめる
皇鈴の眼は、
黒い悲しみに沈んでいた。
明広は、
そのとき
心中に沸き起こった
温かさと冷たさの
入り混じった乱流を、
敢えて、形のない
流れのままにしておいた。
流れの正体を
自身さえつかめぬ
気持ち悪さは残ったが、
闇の深淵でただ一つ、
道を照らし出そうとする星の前、
息の詰まった胸の重みが
凌駕した。
「そうね。
どこから聴いても
分かり難いから、
最初から全部話してあげる。」
夏の樹を
ワンポイントにあしらった
金縁のコーヒーカップが2つ、
芳しい香りと共に
運ばれて来た。
知識不足な分、
圧倒的に不利だな。
皇鈴は、
相変わらず
クスクス笑いながら、
明広の向かいの席に
斜めに座った。
「分からないことは
訊きなさい。
私の知ってることなら、
何でも教えてあげる。
その代わり…」
「鈴さん。」
店の主人が、
カウンターごしに
女の声を遮った。
「あっ、いつもの2つ。」
応えた皇鈴の声は、
明広に話しているときより
半オクターブは高かった。
おまけに、細い左手で
ピースまで
作って見せている。
「ここのコーヒー飲んでけば、
朝から百人力よ。」
主人は
笑顔でうなずいた。
代わりに、の続きは何ですか?
調子がいい女の声に
つい、心中、
催促してしまった後で
少しばかり後悔した。
交換条件なんか、
聴いてないなら
聴いてないで良かったかもな。
「ちゃんと探しなさいね、
ってだけ。」
言われなくても、だ。
「でしょ?
私、これでも
貴方のこと、
高く買ってるんだから。」
なら、俺のこと、わら…
…言語化、
しなけりゃいいんだよな。
明広は、
思考を止めた。
白い壁の中程に開く
出窓の外、
庭にある木々の
夏先の新緑繁る枝々の間から
こぼれ落ちる
朝の木漏れ日。
その
逆光の中で、
木目の美しい
テーブルの表面を
ぼんやりと見つめる
皇鈴の眼は、
黒い悲しみに沈んでいた。
明広は、
そのとき
心中に沸き起こった
温かさと冷たさの
入り混じった乱流を、
敢えて、形のない
流れのままにしておいた。
流れの正体を
自身さえつかめぬ
気持ち悪さは残ったが、
闇の深淵でただ一つ、
道を照らし出そうとする星の前、
息の詰まった胸の重みが
凌駕した。
「そうね。
どこから聴いても
分かり難いから、
最初から全部話してあげる。」
夏の樹を
ワンポイントにあしらった
金縁のコーヒーカップが2つ、
芳しい香りと共に
運ばれて来た。
感想
- 21338: 感情描写に一文字一文字に食い入ってしまいますシャイン [2011-01-16]
- 21391: 勿体ないお言葉ありがとうございます(感涙)遥花 [2011-01-16]
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