流狼−時の彷徨い人−No.6
半次郎は刀を鞘におさめると、女に差し出すようにして地に置いた。
「……貴女に頼みがある、…この少年を越後の国主、長尾景虎様の所へ……連れて行ってはもらえまいか」
絶え絶えの息の中、半次郎は頭を下げて懇願した。
女は黙ったままだった。
この女が何者なのか、何の目的で自分達の前に現れたのかはわからない。だが風前の灯火である半次郎には、この女に敵意が無いのならそれでよかった。
「……三郎様が景虎様と出会えば、…この乱れた世は変わるかもしれないのだ。……だから、頼む………」
遠ざかる意識の中、必死に頭を下げる半次郎。
その半次郎へ静かに歩みよると、女は半次郎の刀を拾いあげて抜刀した。
女は品定めするように刀を見つめていた。銘は定かではないが、名刀といっていい代物だった。
「……代償としてこの刀を貰うが、構わぬか?」
女がそうささやくと、半次郎は体中から力がぬけていくのを感じた。
「………かたじけない」
その一言に最後の力を使い果たし、半次郎は前のめりに崩れ落ちた。
その半次郎にしがみつき、繰り返し名を呼ぶ三郎。だが、半次郎が笑いかけることは、もうなかった。
白みかけた空の下、森の中に三郎の慟哭が悲しくこだましていた。
後藤半次郎の享年は二十九歳。
生国も生い立ちも定かではないこの男は、望めば歴史に名を残せるだけの剣技を持ちながら、名も無き剣士として一生を終えた。
三郎ただ一人に見送られた最期だったが、当人には満足のいくものであった。
「……貴女に頼みがある、…この少年を越後の国主、長尾景虎様の所へ……連れて行ってはもらえまいか」
絶え絶えの息の中、半次郎は頭を下げて懇願した。
女は黙ったままだった。
この女が何者なのか、何の目的で自分達の前に現れたのかはわからない。だが風前の灯火である半次郎には、この女に敵意が無いのならそれでよかった。
「……三郎様が景虎様と出会えば、…この乱れた世は変わるかもしれないのだ。……だから、頼む………」
遠ざかる意識の中、必死に頭を下げる半次郎。
その半次郎へ静かに歩みよると、女は半次郎の刀を拾いあげて抜刀した。
女は品定めするように刀を見つめていた。銘は定かではないが、名刀といっていい代物だった。
「……代償としてこの刀を貰うが、構わぬか?」
女がそうささやくと、半次郎は体中から力がぬけていくのを感じた。
「………かたじけない」
その一言に最後の力を使い果たし、半次郎は前のめりに崩れ落ちた。
その半次郎にしがみつき、繰り返し名を呼ぶ三郎。だが、半次郎が笑いかけることは、もうなかった。
白みかけた空の下、森の中に三郎の慟哭が悲しくこだましていた。
後藤半次郎の享年は二十九歳。
生国も生い立ちも定かではないこの男は、望めば歴史に名を残せるだけの剣技を持ちながら、名も無き剣士として一生を終えた。
三郎ただ一人に見送られた最期だったが、当人には満足のいくものであった。
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