流狼−時の彷徨い人−No.7
「行くぞ」
半次郎の死に何の感傷もない女は、そういって歩きだした。だが、三郎は半次郎から離れようとはしない。
「半次郎殿を埋葬します。それまで待って下さい」
「……オマエは追われているのだろ?
そんな事をしていては、追い付かれてしまうぞ」
「それでも、半次郎殿を野ざらしにしたままでは行けません。
この人がこんな所で人生を終えねばならなかったのは、私のせいなのだから」
流れる涙を拭いもせず、三郎は小刀を抜いて穴を掘りだした。
懸命に刀を地面へ突き刺す三郎だったが、たいした穴が掘れるわけもなく、虚しい作業が続いくだけだった。
見兼ねた女は三郎の肩をつかんで制止すると、自分の物となった刀を差し出した。
「持っていろ」
女は半次郎の脇にしゃがみ込み、その細い腕で軽々と抱え上げると、そのまますたすたと歩きだした。
驚きほうけて取り残された三郎は、刀を抱えて後を追いかけた。
女の後を懸命に追う三郎。
やがて小さな洞窟にたどり着くと、女は半次郎を入口付近に横たえて洞窟の外に出た。
「刀を」
三郎から刀を受け取った女は洞窟の地形を確かめると、抜刀して上下左右に振った。その直後、地響きとともに洞窟は崩れ落ちた。
三郎は目を丸くしていた。
女は刀を軽く振ったようにしか見えなかったが、その太刀筋はあまりにも早過ぎて可視できず、硬いはずの岩盤を難無く切り裂いていた。
それは三郎が今まで見聞きした、どの剣術にも属さない剣技だった。
三郎は女の素性に興味をもっていたが、聞こうとはしなかった。
この女が近寄りがたい気を出していたこともあるが、三郎自身があれこれ聞くのは失礼だと考えたからだ。
「正式な埋葬とはいえまいが、野ざらしよりはましだろう」
刀を鞘に戻しながら女がそういうと、三郎は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
「……どうせ塞ぐ予定だった通路だ、礼には及ばない」
その言葉に小首を傾げる三郎だったが、女はすぐさま歩きだしたため、慌てて後を追いかけた。
半次郎の死に何の感傷もない女は、そういって歩きだした。だが、三郎は半次郎から離れようとはしない。
「半次郎殿を埋葬します。それまで待って下さい」
「……オマエは追われているのだろ?
そんな事をしていては、追い付かれてしまうぞ」
「それでも、半次郎殿を野ざらしにしたままでは行けません。
この人がこんな所で人生を終えねばならなかったのは、私のせいなのだから」
流れる涙を拭いもせず、三郎は小刀を抜いて穴を掘りだした。
懸命に刀を地面へ突き刺す三郎だったが、たいした穴が掘れるわけもなく、虚しい作業が続いくだけだった。
見兼ねた女は三郎の肩をつかんで制止すると、自分の物となった刀を差し出した。
「持っていろ」
女は半次郎の脇にしゃがみ込み、その細い腕で軽々と抱え上げると、そのまますたすたと歩きだした。
驚きほうけて取り残された三郎は、刀を抱えて後を追いかけた。
女の後を懸命に追う三郎。
やがて小さな洞窟にたどり着くと、女は半次郎を入口付近に横たえて洞窟の外に出た。
「刀を」
三郎から刀を受け取った女は洞窟の地形を確かめると、抜刀して上下左右に振った。その直後、地響きとともに洞窟は崩れ落ちた。
三郎は目を丸くしていた。
女は刀を軽く振ったようにしか見えなかったが、その太刀筋はあまりにも早過ぎて可視できず、硬いはずの岩盤を難無く切り裂いていた。
それは三郎が今まで見聞きした、どの剣術にも属さない剣技だった。
三郎は女の素性に興味をもっていたが、聞こうとはしなかった。
この女が近寄りがたい気を出していたこともあるが、三郎自身があれこれ聞くのは失礼だと考えたからだ。
「正式な埋葬とはいえまいが、野ざらしよりはましだろう」
刀を鞘に戻しながら女がそういうと、三郎は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
「……どうせ塞ぐ予定だった通路だ、礼には及ばない」
その言葉に小首を傾げる三郎だったが、女はすぐさま歩きだしたため、慌てて後を追いかけた。
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