アニキ【1】(全7話)
薄汚れたオフィスの片隅で、古ぼけた業務用エアコンがカタカタ鳴っている。
事務所には俺一人だけ。
僅かに開いたブラインド越しには、夏の夕暮れの日差しが、淡く差し込んでいた。
――土曜日だ。いい加減もう帰らなきゃ。
俺は自分にそう言い聞かせながらも、平日たまった事務処理を終えると先程から中断していたデスクの中身の整理に再び取り掛かった。
デスクの真下の引き出しを引っ張り出すと、ばらけたクリップや付箋がスチールの上を這い回っている。
そして俺は、その中に紛れていた春のキャンプの頃の写真を眺めながら、K先輩のことを思い返した。
K先輩は入社15年のベテランで妻子もいるが、見た目も若く且つ気さくで、入社3年目の俺は密かに『アニキ』と呼んで慕っていた。
アニキは、無口な俺にも良く話し掛けて来た。会社が始まる朝は、いつも決まって俺に絡み、職場を笑わせるのが日課だった。
アニキが立て続けに冗談を言うと、いくら笑いのセンスのない俺でも突っ込まざるを得ない。たちまち笑いが起こる。
「翔クンって面白いのね」と女子社員は言っていたが、俺自体はちっとも面白くなく、ただアニキの調子に乗せられているだけだった。
(続く)
事務所には俺一人だけ。
僅かに開いたブラインド越しには、夏の夕暮れの日差しが、淡く差し込んでいた。
――土曜日だ。いい加減もう帰らなきゃ。
俺は自分にそう言い聞かせながらも、平日たまった事務処理を終えると先程から中断していたデスクの中身の整理に再び取り掛かった。
デスクの真下の引き出しを引っ張り出すと、ばらけたクリップや付箋がスチールの上を這い回っている。
そして俺は、その中に紛れていた春のキャンプの頃の写真を眺めながら、K先輩のことを思い返した。
K先輩は入社15年のベテランで妻子もいるが、見た目も若く且つ気さくで、入社3年目の俺は密かに『アニキ』と呼んで慕っていた。
アニキは、無口な俺にも良く話し掛けて来た。会社が始まる朝は、いつも決まって俺に絡み、職場を笑わせるのが日課だった。
アニキが立て続けに冗談を言うと、いくら笑いのセンスのない俺でも突っ込まざるを得ない。たちまち笑いが起こる。
「翔クンって面白いのね」と女子社員は言っていたが、俺自体はちっとも面白くなく、ただアニキの調子に乗せられているだけだった。
(続く)
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